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ページ番号787番
★ 指輪 ★ ようじ (名古屋) 2010-11-09
目の前のテーブルの上に、妻がさっきはずしていった指輪が置いてあった。
結婚を機に、妻へのささやかな贈り物だった。 それが結婚以来、はずされているのを初めて見る思いだった。 「帰ってくるだろうか?」 妻が出かけて、もう三時間はゆうに過ぎている。 妻と離婚を前提に話し始めたのは、今から二ヶ月ほど前だった。 私も怒り狂い、妻を罵倒した。 妻は私に謝ったり、言い訳を繰り返したが最後は開き直っていた。 だが、私たちは離婚を選択しなかった。 まだ中二の娘が、元気に学校へ行っていたのがその理由だった。 「もう一度、やり直そう・・・・」 これが私たちの答えだったはずだった。 「お願いがあるの・・・あの人とキッパリ別れてきたいの。 昔みたいに、後を引くのは嫌だから・・・」 私は悩んだが、結局それを受け入れた。 「いいよ・・・もう会わないことを約束できるならば・・・」 妻が高校の同窓会で、付き合っていた男と再会したのは去年の暮れだった。 それから妻の秘密の行動が始まっていた。 二ヶ月前、繁華街を腕を組んで男と歩く妻を見かけた。 それから私たちは話し合い、また新たに理解し合うことを見出した。 そしてお互いを認め合ったはずだったのに・・・ もうそろそろ夜が明けてくる時間になっていた。 だが私は一人でソファーに座って、妻の指輪を見ていた。 「これは置いて行くわ。でも必ず早く戻ってくるから、その時改めて 私の指にはめて頂戴ね。」 妻は笑顔で、玄関を出て行った。 私はその指輪を指で摘んだり、手の中で転がしたりしていた。 そんな時その指輪を落としてしまった。 指輪は大きく床で跳ねて、見えない場所に転がっていった。 指輪の動きが、まるで妻の気持ちを表しているようだった。 まだ妻は帰ってくる気配がしなかった。
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