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ページ番号743番
★ 可哀相な夫(Aさんの哲学) ★ 新妻K子 (東京都) 2010-04-30
Aさんから電話があったのは4月22日でした。
「K子ちゃん、わたしだ。 Aだ」 「あ、Aさん・・・、ご無沙汰しています。横浜ではお世話になりました」と型どおりの挨拶をしたが、わたしの声はどこかはずんでいる。 「まぁ、水くさいことはいうな。世話になったのはこっちだ。K子ちゃん、皮肉に聞こえるぞ」と笑い声がして、 「元気そうじゃないか・・・」と声の調子が変わります。 「おかげ様で・・・」、夫婦円満にやっていますと続けるべき所をこの部分はなぜか呑みこんだ。 「そのおかげ様のうちには私も入っているのかな?」 「・・・」 「便りがあったので、電話をしてみた。もっともこれは自分が書かせたようなものだがね・・・どうだ、メシでもゆっくり」 「御飯は食べたい気はしますが、Aさんのユックリはなんだかコワイわぁー」というと 「分かった、ハヤメシにする。人が来た。後で連絡する」と云って電話は切れました。 会ったのは4月24日でした。クリアーサングラスとお気に入りのジーンズにブルーのジャケットというカジュアルな格好で昼過ぎ車で家を出ました。夫と六本木乃木坂にある国立新美術館で開催中の展覧会アーティスト・ファイル2010を見たあと銀座まで送ってもらい、大学時代の友人たちと会います。私は途中で失礼して待ち合わせ場所に向かいました。横浜のカクテルドレスからジーンズ姿への変身にさすがのAさんも近くに行くまで私と分からなかったようです。 食事をしながらAさんになぜ夫のオファーを受け入れたのか訊ねてみました。ワインを口にしてから、身を乗り出すようにして話し出します。 「K子ちゃん、一口にいえばあなたが別嬪さんだったからさあ・・・」 「あの写真のわたしが、ですか?・・・」と、からかうように顔をのぞきこむと 「そうだ。写真より実物の方が数倍よかった。だから今日ここにいるんだよ」と笑います。 「実物って、中味という意味ですか?・・・」と問うと頷き、真面目な顔で次のような話をしました。 夫がAさんに自分には見えない妻を知りたいという思いを打ち明けたのは、業界関係だとか高校の先輩後輩という関係ではなく、出自を含めAさんの経歴、家庭環境を熟知していたので信頼していたからだろうと云い、夫は私が処女であったからあっちの方は私が保証しますといい、逆にそういう心配のないことを考慮してAさんに白羽の矢を立てたのだという。 「まぁ、私の身持ちのいいのは世間では知られていてね。こういう話を私に切り出すにはご主人も相当の迷いとか覚悟があったのだろうね。呑めない酒を飲んで・・・」 「愛妻家なのね」・・・・・・・・・・・・・・・・ 「K子ちゃん、君はフランス語を話すから『万巻の書より一本のワインの中に哲学をみる』という言葉を知っているよね」と、云うとAさんはワインのボトルを手にして自らのグラスに注ぎます。 「ルイ・パスツールでしたね。たしか細菌学者の・・・」 「さすがだね、秀才さん。では私の哲学をあなたの中に受けてもらえますか」とうれしそうにいいます。 「私は秀才ではあ、り、ま、せ、ん。でも、壊れやすいから優しく入れてくださいね」とニッコリしてワイングラスを手にすると、残りが少なくなったボトルの首をグラスに深く差し入れてハイ、ハイと言いながら男女の営みを模したように瓶の口でグラスの底をこする様にして注ぎ込みます。 「ふざけちゃ否、ちょっと・・・」と、たしなめる私に気をとめることもなく 「K子ちゃん、私は身持ちがいいばかりか、脇も固くてね。あなたのことは分かっているの」と云うと夫には内緒にと前置きして次のような話をしました。 最初に夫からオファーがあったとき私の写真を見せられ、出来過ぎた話、美味過ぎる話だけに即答はせず、探偵を使って家族を含めた私の周辺を調査したそうです。それで私の学生時代の評判を報告書で知ったのだという。だからフランス語云々もそのレポートに書いてあったのだと思います。 「ご実家は旧家なのだね・・・」 「家屋敷が古いという意味では旧家かもしれません。駅前からタクシーに乗るとき名前を言えば運転手が黙って頷くといった程度ですよ」と一笑して見せました。 「お母さんはあなたにそっくりの美人さんだね・・・正確にいえばお母さんの生き写しがK子ちゃん」 「エー、そんなことまで調べたのですか」と目を丸くすると、二度目の交渉時に夫がフォトアルバムを数冊持ち出してAさんに見せたという。 「恥ずかしいわぁー、あの人そんなことまでしたのですかぁー」 「知らなかったの?・・・ それは参ったなぁー」 「ご主人からあなたが家族の写真を見たいと云っていると聞いて、早トチリしちゃったよ。じゃあ、家族の写真を見たいというのは自分の発想だったのだね。そうか・・・」 「でも、Aさんの学生時代の写真をなんて、私は云っていませんよ」 「分かっています。そうむきになりなさんな、あれはご主人の思いつきだ。ミッション系で男の世界をあまり知らないからと。ちなみにアレは対抗戦で優勝したときの写真だよ」と笑います。 わたしはあの写真のAさんにすごく魅かれたことはいいませんでした。 「真相を知ってK子ちゃんを見直したよ」 「どうしてですか?」 「普通こういう場合、本人はともかく家族の写真を見せろなんていわないもの。そういうあなたの感性をですよ。お母さんのDNAを受け継いでいるのかな?」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ そのあとは、彼が見たというアルバムや報告書の内容で話は盛り上がりあっというまに時間が経過します。 彼がドアを閉めるのをみて、「10時前には帰してね」といいますが、そう云っている自分が多分できない相談なのだろうな、という感じがします。 ゆったりと落ち着いた部屋のたたずまい。広いダブルベッド、雰囲気のある間接照明。十一階から見る外濠通り、日比谷通り、青山通りの光の帯と高層ビルの窓明かり。対照的な皇居と日比谷公園のダークネス。 ジャケットを片手にAさんは窓辺に立つ私に近づいてきて、それを椅子の上に置くと後ろから肩に手を置き、 「K子ちゃん、初めての夜だな・・・」というとその手を伸ばし私の上着を脱がします。私はガラスに映る彼を見ながら、 「そういえばそうね・・・」と応えると、脇の下から手を差し入れ私の乳房をつかみ、耳元で 「夜の君はなにか寂しそうに見えるね」と、囁き唇を私の首筋に這わせてきます。 「痕を付けないでね」と首をすくめると、バレンタインのとき何が一番印象に残っていると囁かれます。 「抱き上げられベットへ運ばれたことかな」と云うと、なんだ、そんなことかと少しがっかりした様子。 「天井は回るし、私の人生がAさんに運ばれているようでウットリしていたのよ」とつぶやくとAさんは私を掬い上げるように抱き上げ 「横浜でもこうやって部屋に入ればよかったのかな。ボーイにドアを押さえてもらって」といいます。 ベッドに運ばれて着衣を脱がされているときドアがノックされてボーイが入ってきたときは本当にびっくりしました。私が10時前には帰りたいと言ったので、あせったAさんはブランデーのルームサービスを頼んでいたのを忘れたのです。Aさんがドアのところに行ったので、ボーイが部屋の中まで入って来ると思ってもいません。 ベッドから身を起こし横座りになって何事かと耳を澄ましていたのですが、「あそこに置いて」という声がしたときは我が耳を疑いましたよ。ジーパンは着けていましたが上半身は裸ですからね。 上掛けは足元から離れたところにあるし、あとは枕を抱いて胸元を隠すほかはないのですが、私はこういう場面ではむしろ開き直る性格なのです。天邪鬼なのです。Aさんがアタフタする私を楽しもうとしていることはミエミエなんです。胸のプロポーションには多少は自信があったので、軽く自然なポーズをとってしまいました。そして目でボーイを追ったのです。その結果、なんと彼はわたしの成熟した胸を見た三人目の男になってしまったのです。 ボーイが出て行くとAさんはニコニコして、 「いいねぇー、K子・・・、白いキャンバスルから脱け出した印象派の女性みたいだよ」と言いながら見ています。照れくさいので目を落とすと、なるほど何もない正方形の白いシーツにビーナスの誕生みたいな自分がいて・・・。 顔を上げればAさんが写真を撮ろうかというジェスチャーをしていいます。首を振ると 「いいねぇー、その表情! 絵になるのになあー・・・、携帯の写真じゃぁね」と心残りのようです。 私とアイコンタクをとりながら、ご自分も上半身裸になると、ベッドに上がって来て背後から私に抱き付き50日ぶりの肌の感触を確かめているようです。一方の私は夫の女性のような手と違って、Aさんの武骨な手で触れられると二人が初めて関係を持った日の触感がよみがえってきます。優しい愛撫なのですが時たま指のゴルフダコが乳首に当たると思わずため息が出てしまいます。Aさんは私のジーパン姿がお気に入りの様子でなかなか本題に入ってくれません。 でも、優しかったのはここまでで、リモコンで明かりを調節すると私はすぐ倒され、脱がされ、侵入されます。 「K子、夜の君は格別だな・・・、瞳が大きくなって濡れている。ホラ僕の顔が映っているよ」と云うと動き始め、乱暴をしないようお願いしましたが、でもそれはやはりかなりハードなものでした。 それと初回のときにはいろいろな言葉を浴びながらでしたが、今回はそれに加えここには書けないような事を言わされました。わたしは窮屈な姿勢のまま顔を覗き込むようにしてこう言われます。 「K子、なぜあのときご主人が来ることを断ったと思う」 「・・・」 「それはね、分別盛りの私がそんなことをしてはご両親に申し訳がないと思ったから。ご主人の気持ちは十分理解した上でだ。だからどんなセックスをしたか伝わるようにあんなことをした。で、今日は優しいだろう・・・」 「スタンプなんてはじめて付けられてあわてたわ。なかなか消えないのよ」 「擦っても洗っても一日やそこらじゃ消えないよ。とくにK子みたいな色白の人は・・・」 「笑い事ではありませんよ。恥ずかしい思いをしたのよ・・・わたし」 「どうして?」と合点がいかないAさん。 「主人が見つけたのよ。云われて分かったの・・・、意地悪ねぇー、あんなところに・・・」とあきれてみせると 「じゃあ、あの日ご主人と・・・」とニヤニヤするAさん。 「ありました。可哀相だから乳房についたAさんの横に付けさせてあげました」とむきになる私。 Aさんは、それはよかったと笑うとまた動き始め、今日はおみあげを付けたら大変だ、優しく、優しくと言いながら私を突き上げてきます。わたしは混乱してしまって、もう、あとはAさんがなすが侭でした。 終わったあと二人は熱いシャワーを浴びてからバスローブ姿でソファーに腰をおろします。目の前にはミニボトルとブランデーグラスが二つとカードキイが一枚置かれていました。そして二つのグラスがキスをするとクリスタルな響きが目の前に広がります。 「K子ちゃん、さすがに名に恥じずにいい響きを出すね」 「そうね、でもクリスタルグラスってわたしみたいに壊れやすく繊細なのよ・・・」 「そういえばさっき、クリスタルな声で、あなた、お願い、ゆるして、壊れちゃうーなんて言っていたな・・・あなたと呼ばれて嬉しかったよ」 「そんなことを言ったかしら・・・覚えていないわ」 「で、名前を付けたのはお父さんさんかな、それともお母さんかな・・・、私はお母さんだと思うな」 「エ・エー、“いい響き”って、わたしのことですかぁー」 「K子ちゃん、お母さんと声がそっくりでしょう。話し方まで・・・」 「イャヨー、そんなことまで・・・、どうして!」 「間違い電話のふりして電話をしたんだ」 「へー、Aさんってストーカーなんだ。実家まで電話をして・・・」と子供のように呆れてみせると、 「お嬢さんはすぐ真に受けるね・・・、安心して、ご主人から聞いた話だから」というなり私は引き寄せられ唇をふさがれます。・・・・・・・・・・ 私を解放するとブランデーを口にしたAさんは改まった口調で、はじめて関係を持ったときの印象をわたしにたずねました。私はすべてが驚きと戸惑いの連続だったとコメントします。すると、具体的に言ってよと、言われて、思いつくままを挙げてみました。 「まずはシャワーも使わせないでいきなりウムを言わさず求められたことね」 「随分抵抗したね。おかげでK子のカラダがすごっく柔軟なことがわかったよ」 「でも、あれは普通じゃないわ」 「それは香水や体臭を含めて生の君がほしかったからだよ。そのかわり言葉のシャワーを十分浴びたでしょう」 「そうね、命令口調の聞くに堪えない・・・私は整体を受けに来たわけでもないし、体操の選手でもないのよ」 わたしは折り曲げられ二人の息づいている部分を見るようにAさんに要求されましたが、あまりにも惨めな格好なので、顔をそむけ目を閉じて横を向いていました。でも執拗に命令されると涙が出てきて・・・ こんな情景をもそのひとつなのです。 「そうだったね。つい体育会系の癖が出ちゃって、鬼コーチの乗りで・・・。でも、涙を浮かべてイッタね」 「ええ、はじめてよ。あんなことになったの・・・」 「Aさん、ダメ、ダメ、ダメヨーなんて叫んで・・・、Aさんじゃない! あなたと言え! とか怒られたね」 「そうね。ダメとはなんだ! あなた許してー! と言えとかね」 Aさんは私の手をとると、 「どんなことでも女性が初めて経験するって大変なことなんだよ。男がその扉を開けてあげる。さっきは言われなくても見ていたでしょう」と笑い、私も否定せず、あれってもう二人には約束事なのよとテレ笑いをします。 「いいかい、男とセックスするときは、肝心なときにAさんだとか、Bさんだとか個人名を出すくせを付けちゃだめだよ。相手が10歳も年下の坊やでもア・ナ・タで通さないと。でも今日は教えたようにちゃんとできたじゃないか」と言われますが、なにを口走ってイカサレタのか覚えていません。 「あとは、二回目を求められたときかな・・・、わたしそんな経験なかったから・・・」 「あれはね、K子の横顔を見ていたら、なんとなくもう一度できそうな気がした。何十年ぶりだよ」とAさんは笑う。 「あの時、わたしは新潟県の出身だけど、Aさんはもしかして佐渡のご出身かと思ったのよ」と皮肉をいうと 「どうして?・・・金(キン)を持っていそうだからかい?」と笑います。 「集中しているとき、『こんなことをさせて君のご両親に申し訳ないと思っている』とか、私を虐めたからよ」といってやりました。すると 「おませなお嬢さん、そういう意味ね・・・、よくできました」とまた笑います。 「あのとき頭の中でチャイコフスキーのバイオリン協奏曲の第二楽章のソロを弾いていたのよ。わたしの唯一の見せ場だったのに、コントラバスのオジサンが『今何を考えていると思う?』なんて割り込んできて、期待していた第三楽章があっというまに飛んでしまって・・・」 「それはK子の殺し文句のせいだよ」と責任をわたしに転嫁します。 じゃあ今度はわたしの印象を教えてというと、Aさんは考えるまもなく 「終わった後ホラ、シャワーを浴びてスッピンになって、今みたいに髪をポニーテールにすると、あの時のバリキャリ風のK子がお母さんのような成熟した女性に見えたんだよ。疲れのせいもあるのだろうけど頬にそこはかとなく憂いみたいなものが感じられて、人間的深みみたいなものがね・・・」と云います。 「私は未熟というわけね・・・」 「そうじゃなくてホラ、完成品は文句が付けようがないくらい美しいが、使い込まれてさらにその美しさが増すというものってあるでしょう。たとえばヒノキの柱みたいに・・・生活感があるというか生きているような」 わたしはこれを聞いてAさんが私の中に母の面影みたいなものを求めているのではないかと思いましたね。 母はAさんより二歳年下ですが、顔付きも体付きも私とソックリなのです。 「おっしゃる意味はわかります。わたしはあまり使い込まれていないというわけね。それでさっきのように私を乱暴に扱ったのね。これでもか、これでもかと私のカラダをクタクタにして疲労困憊させたのね」と云い終わらないうちに私はAさんに再び引き寄せられ襟元から胸に手を入れられます。 「K子ちゃん、これがお母さんのオッパイだよ」と乳房をゆっくりもみしだきながら 「お母さんのオッパイさわったことあるよね。さっきとは感触が全然違うよ。柔らかくて、大きすぎず小さすぎず、私の手の中にすべてをゆだねてくるような感じ・・・」とつぶやきました。 私はAさんの肩に自分を預けたまま、わたしの中に母を見ているのね、と云うとそのまま無言でソファーに倒され、口移しにブランデーを飲まされます。喉の熱さも冷めない間に唇を離すと右手の愛撫はそのままに、 「お母さんの中に君を見ているのかもしれないね・・・アルバムを見せてくれたご主人のせいだよ・・・」と云い今度は唇をむさぼるように求めてきて、やがてその矛先は首筋に向かい私は彼のうなじに右手を添えながら天井をボンヤリ見ています。そんな私は、「奥さんが好きだ」、と耳元で囁かれ我に返ります。言い換えれば、この一言がわたしのカラダを貫いたのです。 Aさんに「奥さん」と呼ばれたのはホテルのラウンジで夫に紹介された時と、二人きりになってはじめて肌を合わせた当初二度くらいあったでしょうか。それ以降は「お嬢さん」、「K子」、「K子ちゃん」、「君」、「あなた」で終始して、ましてや「好きだ」などと云う甘い言葉は全くといってもいいほどなかったのです。 ただ、「ゴメンネ」、「きつかった?」、「がまんしてね」とかのいたわりの言葉は随所にありましたね。 わたしは自然とAさんの首にしがみ付いていました。 Aさんは私を抱き上げると、軽く揺すって、「奥さんいくつ」と訊きます。体重のことをいているのですが 「163です」と身長をいうと、「そう、軽すぎず、重すぎず手ごたえが絶妙のバランスだね」と踊るようにまわりながら私をベッドに運びます。・・・・・・・・・・・・ そして、Aさんは終始わたしのことを「奥さん」と呼び、今までとまったく違った態度で接してきます。 私の中に母を見ているのか、Aさんが言うように母の中に私を見ているのか分かりませんが、写真で見たという母を意識していることは間違いありません。私もそんなAさんに乗せられたわけではありませんが、気が付くと母になって対応している自分がいたのです。Aさんが私に投げかけた言葉をあげておきますので状況はみなさんの経験に照らしてご想像ください。 ちなみに、ここで出てくる「ご主人」とは私の中では私の夫ではなく私の父なのです。 「白いねぇー、奥さん、白いネェー、このオッパイご主人が独り占めしてきたんだねぇー」 「ねぇー、ねぇー、奥さんのドックに私の船を入れさせて、ねぇー、ねぇー」 「せまいねぇー、きついねぇー、奥さん、ゆっくり入れるからねぇー、がまんしてねぇー」 「入ったねぇー、奥さん、入ってしまいましたねぇー」 「ねぇー、ねぇー、奥さんの写真をひと目見たときからこうなることを夢見ていたんですよー」 「ねぇー、ねぇー、奥さんのことを想いながらオナニーをしていたんですよー、本当ですよー」 「ゴメンねぇー、奥さんにこんなことさせちゃって、ゴメンねぇー、ご主人に悪いねぇー」 「切ないねぇー、ご主人のことを思うと切ないねぇー、奥さん、もう少しだから我慢してねぇー」 「イイのー、奥さん、そんなにイイのー、ハーイ、ハーイ、もうすぐだからねぇー」 「声もっと出してもいいですよー、奥さーん」 「ねぇー、ねぇー、奥さん、もう一度逢いたいと云って、ねぇー、ねぇー」 「一緒にいこうねぇー、奥さん、一緒にいこうねぇー、いいですよー、いいですよー」 以上が正確ではありませんが私の記憶に残っているものです。これにどう対応したかはここに書けませんが少し感想を云わせてください。私は頃合を見計らってコンドームの装着を求めますが、二回目の用意がなく危険日なので本当に当惑しました。一緒にいこうねぇーと言われると体勢に選択の余地ないんですよね(笑)。 Aさんに切ないネェーといわれると本当に切なくなってしまうし、イイのー、奥さん、そんなにイイのーと云われると本当にヨクなっちゃうんですよね。その後でもう少しだからネェー、我慢してネェーですからね。 切ないというか翻弄されているというか、こんなに優しくわたしをリードしてくれるAさんは初めてでした。 そう、初めて一人前の女として扱ってくれましたし、Aさんの人間の幅みたいなものを知ってしまいました。 会話を通してウマが合うとは思っていましたが、まさかこんなにしっくりと肌が合うとは正直驚いています。 帰宅したのは0時過ぎでした。ただいまといいながら寝室に入ると夫はもう寝息を立てていました。 私は小さな声でゴメンネというと、カードは使わないという誓いを守れたことを神に感謝しました。 ダイヤはダイヤに磨いてもらう他はないと、私のアルバムを持ち出してAさんを口説く可哀相な夫。 Aさんによれば夫はわたしが母のような女性になることを願っているという。 その寝顔を見ながらベッドに滑り込むと、明日は夫の好きなビーフシチューをつくろうと思います。 そしてこれからは夫に求められたときは、Aさんに教えられたようにフィナーレでは涙目になって、もうダメ、ダメ、ダメヨー、あなたユルシテ! と、許しを請いながらイッテあげようと思います。 主に許しを請う事、それがクリスチャンである私のとるべき道だと分かったのです。 そういうキチンとした筋道を教えてくれたAさん。わたしの母に恋をしているAさん。そして母の身代わりを務めているわたし。 そういう状況をつくりだしてしまった夫。 母の化身として抱かれることは父への裏切りになっても、夫への裏切りにならないとAさんは言います。 私の哲学をあなたの中に受け入れてもらえますかと、Aさんはわたしのグラスにワインを注いだのです。 中学3年で経験した聖体拝受、パンはわが肉、ワインはわが血。わたしはAさんのパンを喰べたのです。 整体を受けに来たわけではないのと抗議しましたが、私はAさんの聖体を口にして聖液を飲んだのです。 夫のためならどんなことでもしてあげたい、そんな夫への献身愛がかえってアダになったのでしょうか。 コンドームを一つしか用意しない、わたしに比べればもっと秀才なAさんを責めるべきなのでしょうか。 Aさんに「私の中に母を見ているのね」と囁いて、二回目の引き金を引かせた私しが悪いのでしょうか。 いずれにしても、これでは東大卒でキャリア官僚の夫があまりにも可哀相です。 あのカードはもう持ち歩かず、アルバムに記念として収めておこうと思います。 それがわたしにできる、Aさんと愛する夫にたいするせめてもの至誠なのです。 PS:Aさんの人柄についてはこのコラムの趣旨にそった部分だけを取り上げましたが、食事中や休息中の会話をすべてご紹介できないのが残念です。とりわけあの最中のMCは最高なんです。 私を怒らせたり笑わせたり、泣かせたり・・・・ボーヴォワールやサルトルにも造詣が深く、日本の作家では村上春樹がご贔屓だとか。探偵に調べさせたレポートをもとにわたしに迎合しているのかと思いましたが、そうではありませんでした。夫にはない話の振幅というか落差みたいなものに、私は魅了され続けました。
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