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ページ番号424番
★ 思い出から ★ F (内緒) 2007-08-16
実はこの話は7月26日にとある談話室において「思い出」として書き込みました。
そこではあくまでも思い出として話を完結しましたが、実のところ後日談と云いますか続きがございます。 ここでは「思い出」も含めて投稿させて頂きます。 1話終わらせるつもりですので、少々長くなりますがよろしくお願い致します。 なお事前に申し上げておきますが、文才能力が無い事からご期待に沿える様な性描写はございませんので意に沿わない諸兄はスルーされますようお願い申し上げます。 学生の頃、私の住む町に「Joplin」と云うサテンがありました。 無愛想な店主が創り出す雰囲気が好きで本当によく行ってました。 3年ほど付き合ってた彼女と訪れる時は、カウンターから死角になる店の奥の客席が二人の間の指定席でした。 1979年7月26日の夕方、「Joplin」の指定席に彼女と居ました。 彼女はいつもの様に私の向かいに座り、運ばれて来たコーヒーを少しの砂糖と少しのミルクで私好みにしてくれます。 右手に持ったスプーンでゆっくりかきまぜながら、 「ねー卒業できそう?」、「就職活動は進んでいるの?」 4回生になってから何度となく私に向けられる問いかけでした。 彼女は短大2年の夏頃幼稚園の内定を早々に取っており、私たちの数年先の事を密かに考えているようでした。 その当時の私は、二十歳の頃に参加したバンド活動に夢中でした。 他の大学、短大の学祭に出たり、県庁所在地に有る(今で言う)ライブハウスで小銭をかせいでいて、卒業→就職など真剣に考えていませんでした。 「お前に渡したい物が有るんだけど、もらってくれるかなぁ」 その日私はバイトの給料と、1月前に行ったバンドのコンサートで稼いだお金で買った物を彼女の前に置きました。 「え? なに? 私に? 開けていい?」 紙袋からそのモノを出しながら、 「ね〜 私の話も聞いてよ。二人の大事な事なの・・・え!?」 彼女はしばらくの間、何も言わずそのモノを見てました。 随分時間が経った様に感じました。 彼女は私からの意思表示であるそのモノを見つめながら 、 「泣けちゃうくらいうれしいけど、今はこれは貰えないょ。」 「私の気持ち解るよねぇ」 彼女はバックから取り出したハンカチ握り締めながら俯いたまま顔を上げませんでした。 9月、私の所属していたバンドは自費制作したレコード盤を東京のレコード会社に送りました。 10月、彼女から小包が届きました。 みかん箱程の箱の中には、 私と旅行に行った時に買った物。 宿泊先のレシート。 いろんな所で食事した代金のレシート。その時使った箸の袋。 幸せそうに寄り添った数枚の写真。 お揃いで買ったストーンズのTシャツ。 一緒に行ったコンサートチケット。 そして手紙が入ってました。 そこには、「アナタが本当に好きです。でも私は平凡な幸せが欲しい女です。 ごめんなさい」 11月になってもレコード会社からは返事は来ませんでした。 そして4月私は地元の中小企業にどうにかもぐりこみ、そこで知り合った女性と普通の恋愛をし、数年後結婚しました。 その後の結婚生活も多少の波風はあるものの円満な夫婦関係でした。 しかし夏が近づく度に彼女の事が思い出され、胸に刺さった棘の様に私を悩ませ続けました。 風の便りで彼女がお見合いで結婚したと聞きました。 それから随分月日を重ね、私が35歳の時にある事情により退職し、食べ物商売を始めました。 その日は日差しがきつく暑い夏の日でした。私は36歳になっておりました。 「あれ〜 おひさしぶりです」 彼女の友達が私の店に偶然やって来たのです。 「今でも彼女とよくお茶してるから、言っておいてあげるね」 「彼女はいま○○町に住んでいるんだよ」 そこは私たちが時々演奏していたライブハウスの近くなのです。 数日後、午後の暇な時間に彼女が先日の友人に連れられてやって来ました。 二十歳の頃のかわいかった彼女は、魅力的に変身しておりました。 幸せな生活を送って来た事が感じられます。 彼女の友達は5分も経たずに「じゃ〜ね」と言って店を出て行きました。 私は彼女の意向も聞かず、店を「準備中」にして、彼女を喫茶店にさそいました。 『久し振り。元気だった?』 「うん。○○さんは?」 「あっ 砂糖やミルクの量変わった?」 『いや あの時のままだよ』 「じゃー 私がやってもいい?」 と言って私の前からコーヒーカップを引きました。 「迷惑だった?」 と言って砂糖を入れようとした手が止まりました。 『いや 何か照れくさいだけ』 「いや 私が店に来た事迷惑だった?」 『・・・うれしいよ』 「私ずっと貴方に謝らなければと思ってたのに、こんなに時間が掛かってしまったんだね」 「あの時、貴方に送った箱の中にどうしても入れられない物があったんだよ。解る?」 『いや あの時はそんな事考える気にもならなかったよ』 「・・・やっぱり今さら言うとおかしくなりそうだから言わないでおく」 『何?言ってくれ』 「え〜とね〜どうしても入れる事が出来なかったのは・・・」 あの再会からもう15年もたってしまいました。 その後私たちは月に1度程度誰にも知られずに会っておりますが、空白の13年はまだ埋まりそうにありません。 色気の無い話で失礼しました。
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