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ページ番号1340番
★ 夜の彼方に咲く ★ 美樹
1. 夜の彼方に咲く 信也
僕の妻、綾子は僕より2つ下の三十四歳。 出会った頃より、今の彼女はずっと美しい。 艶やかな髪、しなやかな肌、そして何より、彼女の身体からは、"解き放たれた女"の甘く熟れた匂いが漂っていた。 ──それが、誰の手によって咲かされた花なのかを、僕は知っている。 ある夜、彼女のスマートフォンを、ふとした衝動で覗いた。 浮かぶ文字列。濡れた言葉。見たことのない顔文字。 そして、ある男の名。 【私、あんなに感じたのは初めてです】 【これまでの夫との営みは何だったんだろうって・・・】 その瞬間、胸の奥が震えた。嫉妬と興奮、羞恥と欲望。 ぐちゃぐちゃに入り乱れた感情の中で、 最後に残ったのは── どうしようもない昂ぶりだった。 彼女の相手は、職場の上司。 単身赴任中の、元ラガーマンの課長。 僕とは違って、体格のいい男に抱かれ、綾子はあそこを濡らしながら、喘ぎ声をあげていたのだ。 始まりは2年ほど前らしい。 快感を教えられた妻は、その後、週に一度、あるいは二度、ラブホテルや彼のマンションで抱かれていたようだ。 当然、関係は深まり、Lineから率直な言葉が溢れ出す。 【昨日は乱れてしまって、思い出すと、顔が赤くなります】 【でもあれが本当のセックスなんですね】 付き合い始めて半年ほどすると、もっと直接的な言葉で悦びを伝えるようになった。 【昨日は、あなたの大きなもので、奥の方をいっぱい擦られて・・・】 【夫のものとは比べ物にならないくらい大きくて逞しいです・・・】 【私、避妊してるから、いっぱい出して・・・大丈夫……全部、受け止めるから】 1年が過ぎる頃には、その男は、綾子に別の男を紹介した。 【今度はこの男に抱かれてこい】 綾子はその命令に従い、ホテルに向かい、初めて会った男の前で服を脱ぎ、セクシーな下着姿であるいは全裸で性の奉仕を行う。 そして──その夜の出来事を、詳細にLINEで報告していた。 なぜだろう。そんな妻を想像するたび、喉が渇き、息が上がる。 家に戻った綾子は、何事もなかったように微笑む。 静かにキッチンに立ち、いつも通りに僕を迎える。 そして夜には、彼らに教え込まれた性技で僕を蕩かせ、自分も甘く啼くのだ。 腰の動き、舌の絡め方、吐息の間、以前とは明らかに違う。 綾子は避妊具を子宮に入れていると、彼らには話している。 けれど、僕にはそのことを黙っている。 「ダメよ。妊娠したら困るから」 そう言って、僕にはゴムを求める。 でも、彼らには……そのまま受け入れているようだ。 その事実に、僕は言葉にできないほどの感情を抱いている。 怒りではない。 悲しみでもない。 ただ──興奮だった。そう、もの凄い興奮だ。 綾子はもう、"僕の綾子"ではなく、"彼の綾子"であり、そして時にはまた"別の男の綾子"なのだ。 その事実が僕を興奮させる。 彼女が、他の男たちの指示に従い、淫らに咲き、そして僕のもとへ戻ってくるなら── この関係を、僕は壊したくない。 永遠に続いてほしいとさえ思っている。 2. 夜の彼方に咲く 綾子 夫には、まだ気づかれていない── そう思っていた。でも、時々、その瞳の奥に、言葉にしない何かを感じることがある。 あの夜のことを、よく覚えている。 最初はほんの出来心だった。 仕事帰りに飲みに誘われた課長。 酔った勢いでホテルに入ってしまった私に、言い訳はできない。 けれど、それは私の中の何かを──開けてしまった扉だった。 課長は、大きな手で私を抱いた。 それまでの私が知らなかった方法で、私を愛撫し、責め、そして命じた。 恥ずかしいほど、身体は反応してしまった。 気がつけば、週に1度、2度。 あの人の部屋、ホテル。 そして、いつからか私は、彼の言葉を待つようになっていた。 【今度、あの男に抱かれてこい】 最初は戸惑った。でも、断れなかった。 むしろ、身体が勝手に、期待していた。 知らない男と会い、ホテルに入り、命令どおりに服を脱ぐ。 こうして誰かのものになっていく私を、私はどこかで快感として受け入れていた。 そして、家に帰る。 いつも通りに、夫の前では優しい妻を演じる。 ご飯を作り、洗濯物をたたみ、さりげなく笑う。 ──風呂上がりには、彼が選んだレースの下着を着け、膣奥に、まだ別の誰かの体液が残っている身体で夫に抱かれる。 夫とのセックスでも、以前よりも感じるようになっていた。 夫が私の身体を開発したのではなく、彼が開発したのに、それでも夫に抱かれると以前よりもずっと興奮するし、それを夫も喜んでくれている。 夫には話していないけれど、1年前に避妊具を入れた。 それ以来、あの人たちはコンドームなしで中に出すようになった。 夫に「生はダメよ」と言ったとき、どこか罪悪感を覚えた。 けれど同時に、私は昂ぶっていた。 私が夫に嘘をついて、他の男に抱かれ、あれを生で入れてもらい、体液を直接受け入れていること。 その事実が、私を女として、より深く目覚めさせていくのがわかる。 服の選び方も変わった。 メイクも、下着も、爪先も。 知らぬ間に、男の視線を浴びることに快感を覚えるようになっていた。 そして最近、夫の目が時々、私をまっすぐに見つめてくる。 もしかしたら……知っているのかもしれない。 けれど、問いただすことはない。 代わりに、優しく私を抱く。 その腕の中で、私は時々、こう思う。 夫は本当はすべてを知っていて、すべてを許してくれているのではないかと。 もし、そうだとしたら── 私たちはもう、「普通の夫婦」ではないのかもしれない。 でも、この秘密と快楽に満ちた関係の中で、 私は確かに、女として、妻として、生きているのだ。 3. 夜の彼方に咲く 信也2 ──あの夜も、そうだった。 綾子は少し遅れて帰ってきた。 「残業が長引いちゃった」と言って、コンビニの袋を手にぶら下げていた。 ラップされたサラダと、発泡酒。それを並べて、「今日は簡単にしよう」と笑った。 キッチンで何気なく動く彼女の身体の、その奥に、誰かの体温がまだ残っているのだと思うと、胸の奥がぞわぞわと騒いだ。 彼女は、その日も、誰かに抱かれていた。 上司か、紹介されたセフレか、それは分からない。もしかしたら、客を取ったのかもしれない。そう最近は、セフレの命令でデリヘリもするようになっていた。 湯上がりの綾子が、静かに寝室に入ってきた。 僕はそのとき、もうベッドに横になっていたが、目は閉じていなかった。 「……ねぇ、する?」 ぽつりと、綾子が言った。 その声は、どこか濡れていて、そして少しだけ、許しを請うようだった。 僕は何も言わずに、彼女の身体を引き寄せた。 彼女は自分から脚を絡めてきて、僕の下に入った。 唇を重ね、肌を撫でる。 そのとき、わずかに匂う栗の花の香り。 入れた瞬間──わかった。 彼女の身体には、まだ、別の男の体液がたっぷりと残っていた。 それが僕のものにねっとりと絡みついてくる。 僕はそれを、ただ静かに受け入れた。 怒りも悲しみも、もうなかった。 あるのはただ、どうしようもないほどの──興奮。 「んっ……ぁ……信也……」 綾子は甘く喘ぎ、目を伏せる。 その瞳の奥に、一瞬、何かがよぎった。 後ろめたさか、あるいは……悦びか。 僕は、それを確かめようとは思わなかった。 むしろ、確かめたくなかった。 彼女の奥で、僕は動いた。 彼女はそれに応え、腰を揺らし、足の指をきゅっと丸める。 その顔には、確かに快楽が浮かんでいた。 けれど、それが"僕によるもの"である保証は、どこにもなかった。 ──それでも、いい。 誰かに抱かれたあとの綾子を、僕が抱く。 彼女の身体にまだ残っている男の体液を、僕が舐める。 それは、倒錯かもしれない。 でも、たまらなかった。 僕は確かに、いまこの瞬間、彼女と最も深く繋がっていると思った。 僕の下で喘ぐ綾子は、もう"僕だけの女"ではない。 だけど、"他の誰かだけの女"でもない。 彼女は、夜の彼方に咲いたまま、また僕の腕に戻ってくる。 それが、この上なく──美しい。
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