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日記番号:892

愛する妻を堕した男

志保の夫(首都圏)


  感想集

6.愛が始まる時①

志保が着替えたいと云うので取りあえずホテルに行くことにした。
志保が予約していたホテルは札幌駅前のシティホテルだった。
友人が一緒でないのでシングルで十分なのだがそのままツインにしたようだ。
30分して志保がロビーに現れたときは驚いた。大きな甲羅を背負ったメス蟹が美しい丹頂鶴に変身したのだ。ピンクのミニスカートに白いブラウス、肩に白いカーデガンを軽く羽織っている。いかにも都会のお嬢さまと云ったスタイルだ。
大学のクラブで見る志保はジーンズにブラウスかTシャッツ、その上に紺のブレザーを羽織ることが多いし、テニスの時は上下白のテニスウエアを着ている。
「遅くなってごめんなさい」
志保が発した最初の言葉はいまでもよく憶えている。
「札幌ってとってもおしゃれな街なのでこのお洋服でいいのか迷っちゃったわ」
白いブラウスは日焼けした顔や手足に眩しく映える。しかし、志保のシェイプされた体型をも強調する。いつも見ているスラリと伸びた足が綺麗だ。今、ミニスカートに隠された太ももや尻のラインも美しい形をしていることはテニスコートで見ている。
「先輩、そんなに見ないでください。恥ずかしいわ」
わずか1ヶ月しか経っていないのに少し大人に見えた。いつも後ろで結んでいる髪が肩まで垂れていたからかもしれない。
「何処かに連れてってください」
志保が腕を絡めてきた。その積極な行動に、不覚にも余裕を失いドギマギする。
志保の希望で羊ケ丘展望台で夕日を見ることにする。女性に人気の観光コースだ
車の中でも志保はハイになっているのか、よくしゃべりケラケラと笑う。まるで女子高生のようだ。
展望台では同じ年代の観光客に頼んでツーショット写真を撮ったが、その時も私の腕の中に抱かれるようなポーズをとった。私は照れくささで顔が歪んでいたが、彼女は本当に嬉しそうな表情をしていた。その写真は今でも志保の部屋の机の上に、結婚式の写真に並んで飾っている。
市内に戻り、食事をすることになったが、ジンギスカンを食べたいと言う。しかし、困ったのは彼女の来ている服が問題だ。ジンギスカンは猛烈な煙と臭いで着ている洋服が汚れてしまうからだ。北海道の人間はその事を皆知っているのでキャンプ場や野外ですることが多く、屋内ではあまりしない。
私の提案で再びホテルに戻り着替えをすることにした。
ホテルの駐車場に車を停めてロビーで待つと伝えると、彼女の口から意外な言葉が飛び出した。
「一緒にお部屋に来て欲しいの・・・」最後の言葉はかすれていたが・・・。
当然のことながら私は躊躇った。婚約者でも恋人でもない男が19才の女子大生の部屋に行くことは非常識だ。それに2人で会うのは今日が初めてだ。私はどう判断して良いか判らず、ただオロオロするばかりだ。そんな私の心の動揺を知ってか知らずか、判らないままに、彼女は私の腕を掴んだままエレベータに乗り部屋まで来てしまった。
しかし、彼女の行動もかなり無理をしていることは何となく分かった。私の腕を握る手が震えていたし、部屋の明りを点けると頬も赤くフラッシュしていた。部屋に入った志保は黙ったまま佇んでいた。

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