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日記番号:510

新婚妻のアルバイト

リストラ亭主(横浜)


  感想集

再就職

派遣会社からの就職の誘いはたとえ遙香への誘いであれ、収入源を断たれた私たち夫婦にとってはとてもありがたいものでした。しかしその内容を聞いてみると、遙香の表情は少なからず暗く曇っていました。
派遣会社が勧める遙香への再就職の仕事は、他でもない遙香が寿退社し私がリストラされた専業商社からの誘いでした。後から知ったのですが遙香の再就職を推し進めているその部署とその責任者は、私達が所属していた部署の他でもない禿げでデブで加齢臭が強いセクハラ課長その人でした。

私が働いていた時でさえ、遙香へのセクハラはエスカレートしていました。
当時は私が遙香の相談にのって、課長のセクハラの矛先を何とか私が間に入って逸らして押さえつけていたのです。しかし私との結婚を公表してからの課長のセクハラは、信じられないほど酷いものにエスカレートしていっていました。
私がリストラにあった今では、気が弱い遙香が強引にことを進める課長のセクハラから逃れる術は無いように思えました。遙香もきっと課長のセクハラの経験を思い出して、今もセクハラ課長が働いている寿退社した会社への再就職を躊躇っていたのだと思います。

一方で買ったばかりの新築マンションで二人の新婚生活を今後も続けていくことを考えると、私の少ない退職金と今までのそれほどもない蓄えだけでは遅かれ早かれ我々の新居での新婚生活が破綻すると言う現実が目の前に迫っていました。マンションを売って安いアパートにでも引っ越すと言う選択肢は、まだ甘い夢を追っていた我々の頭には全くありませんでした。しかし何とか確実な収入源を先ずは確保しなければいけないという、差し迫った現状を無視する訳にはいきませんでした。

私が今からパートやアルバイト以外で、正社員として定職に就くのはとても難しいように思えました。せいぜいコンビニとかファミレスとか小さな商店での時間給の安いアルバイト以外に、私の仕事は無いように思えました。現在の景気の悪さを考慮するると、それさえも条件を考えずにまた運が良ければ、と言う最悪の環境でした。
妻の遙香の就職事情についても、やはり同じようなものでした。少なくとも時給が安い飲食関係か給料は高いが身体を売らなければいけないような女性特有の仕事を除くと、遙香が十分なお金を稼げるような仕事は皆無だと思えました。

そんな環境の中ではたとえセクハラ課長がいる職場ではあれ、遙香に派遣社員としてのちゃんとした仕事があると言うことが今はとても魅力的に輝いているように思えました。
ひと晩2人で話し合った末に出した結論は、先ずは面接だけでも受けてみようということでした。折角の派遣会社からの勧めなので、面接もせずに断るのは今後就職活動をする時のことを考慮しても、派遣の仲介業者に対して失礼だし印象も良くないであろうと考えたのです。本当に課長のセクハラが酷ければ、面接なり就職した後にでも実際にセクハラが酷くなった時点で辞めれば良いと考えたのです。こんな時代なので就職はとても難しいのですが、会社を辞めるのはまだ比較的に簡単だろうと考えたのです。

実際に面接に行った遙香の話を聞くと、会社の現状はかなり緊迫しているようでした。
私がリストラをされたのち半年でまた同じくらいの人数がリストラされ、社員数は我々が働いていた頃の半分以下にまで減っていたようでした。仕事の量も並大抵ではなく、ほとんどの社員が早朝から出社していて、夜も営業は外出したままで定時に会社に帰って来る者は一人もいなくなったようでした。会社としては経営危機を理由に再リストラの可能性の示唆を鞭にして、社員のサービス残業を無言で強要して結果を出させようとしているようでした。
派遣社員でさえも早朝7時頃から出社し夜は11時近くまで、一日2時間ほどだけの建前の残業手当てだけで毎日の大量の仕事をこなしているようでした。でも遥香には毎日2時間だけでも残業手当てが出るだけ、残業が全く出ない正規採用社員よりはまだ恵まれていて良いのだそうです。正規採用社員は早出残業に不満を言うと辞めてもらっても良いと言われるようで、次のリストラのリストの先頭に載せられないように皆が長時間のサービス残業も厭わずに我慢して働いているようでした。


そんなことで遙香は一番一緒に働きたくないと思っていたセクハラ課長の下で、セクハラ課長と一緒に毎日仕事をすることになりました。
働く時間の割りに給料は少ないのですが、以前の給料に加えて毎日2時間分の残業も確実に付くことが保障されました。
こんな社会的環境と会社の逆境の中でも、遙香としては給料の手取りが以前よりも確実に増えることが確定したことも、遙香がセクハラ課長の下で働くと言う結論に至った大きな理由のひとつでした。
セクハラが酷くなったらその時ひと思いに辞めてしまえば良い、という考え方がその時は一番良い解決方法だと思っていたのです。課長のセクハラを、私も遙香も少し甘く考え過ぎていたとはその時は思いもよりませんでした。

課長のセクハラの酷さの微妙な変化と共に、遙香の性的な性向や嗜好の変化、そして遙香の成熟しつつあった性的欲求の変化には、その時点では遙香も私も思い至りませんでした。
結婚前の処女だった遥香と、結婚して少なからず性行為を知ってしまった遥香とは、少し違っていました。

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