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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

12章-5

マスターから話を聞く度に私の心の中で彼の姿が大きくなる。
「今頃、小野さんは新しい彼女とこの別荘で楽しい時間を過ごしているかもしれません。本当にうらやましいですねぇ・・・」
「はぁ?新しい彼女?」
「ええ、何でも芸能人主催のクリスマスパーテーで知り合ったそうです。そこで小野さんと親しくなったようです。あまり詳しいことは分かりませんが、2人の会話では彼女の旦那さんは中東方面に出張中で今年は帰国出来ないらしいんです。それで小野さんが誘ったようです」
「その人も人妻ですか?小野さんは本当に人妻にモテますねぇ・・・、華麗なる独身中年ですねぇ。女房意外に女を知らないサラリーマンから見たら幸せな人生ですね」
「でもねぇ、それが幸せかどうか判りませんよ。小野さんはきっと寂しいと思いますよ。特にクリスマスからお正月にかけては、家族で過ごすことが日本人としては一番幸せに感じるじゃないでしょうか?」
マスターの話を聞いて確かにそう思った。
小野氏には多くの親しい女性がいるらしいことは分かったが、それが陽子のセカンドバージンを与える候補者として不適格とは思わない。
多くの女と濃密な関係を持つことはそれだけ女から見て魅力的なのだろう。それに、それだけ多くのセックス体験を積んでいる男ならスマートに事を運んでくれるだろうし、また私とは違う性的刺激を目覚めさせてくれるかもしれない。
少なくとも女から敬遠されるようなブサイクな中年男に大切な陽子を与えたくない。
何と言っても小野氏はある程度素性が分かっているので安心感がある。
陽子も彼の多くの愛人の1人になるかもしれないが、1対1の濃密な関係よりも都合がいい。一時的に陽子は夢中になるかもしれないが、小野氏にとっては多くの女の1人ならその関係は希薄になる。陽子には酷な事かもしれないが、別れは簡単に出来る。
〝男のワクチン注射〟の相手としては理想的である。
私がボーと他の事を考えていると、マスターが新しい水割りを作って置いた。
「北野さんは年末年始は何か予定はあるんですか?」
「一応、毎年恒例の予定はあるんです。仕事納めの夜は妻と食事に出かけるんです。大晦日は妻の実家で過ごして、元旦は妻の一族と一緒に近くの神社にお参りして2日からは夫婦でのんびりと過ごします」
「北野さんの実家は東北でしたよね?そちらには行かないんですか?」
「私の実家の方は毎年夏休みの時に出かけることにしているんです」
「うちの店の営業は29日までで、新年は5日から始めます。また奥さんと一緒に来て下さい」
「小野さんの会社はいつから始まるんでしょうね?」
「たぶん、5日頃でしょう。あの人も年始は挨拶で忙しいでしょうから、うちに来るのは10日過ぎてからでしょう」
「この本らしい物のお礼はどうしたらいいですかね?」
「小野さんのメールアドレスは知っているんでしょう?」
「名刺に書いてあるアドレスは知っていますけど、プライベートは知りません」
「それじゃ、教えてあげますよ。早速、北野さんのスマホに送信しますよ」
マスターは自分のスマホを手に取ると、その場で送信してくれた。
「私からメールして大丈夫ですかね?」
「北野さんなら信用されていますから問題はありませんよ。もし、気になるようでしたら、私から聞いたと言ってくれればいいですよ。それで、北野さんは小野さんにご自分のメールアドレスを教えていましたか?」
「いいえ、私の会社の名刺しか渡していません」
「それでしたら、私から小野さんから預かった品物を北野さん渡した事をメールで伝えるついでに北野さんのメールアドレスも付け加えておきます。いいですね?」
その後、私は年末の挨拶を交わして店を出た。
私の腹は既に決まった。
しかし、問題はこれからどのようにシナリオを書けば良いのだろう。
明日からの正月休みの間にじっくり考えよう。
来年は私たち夫婦にとって大きな節目の年になりそうだ。

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