メニュー ログイン

日記番号:844

DELETE

幸治(都内)


  感想集

12章-2

新宿のスナック《タッキー》のドアの前に立ち、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする。それから恐る恐るドアを開けて隙間から中を覗く。
「北野さん、いらっしゃい!」
ドアを開けると、マスターが笑顔で迎える。
「いつ来るかと待っていたんですよ」
「年末で、ちょっと忙しくて・・・」
先客は3人いたが、その中に小野氏の姿は見えなかった。
カウンターの端の席に座ると、水割りを持って来てくれたマスターが話しかける。
「実はあれから小野さんが何回か見えられて、北野さんが来られるのを待っていたんですよ。北野さんも年末で忙しいですからね。実は昨夜小野さんが早い時間来られて、『年末年始はハワイで過ごすので、今年は今日が最後です。もし、もし北野さんが来たら、これを渡してください』と、言って預かった物があるんです」
マスターはそう言うと、厚めのA4版の書類封筒を差し出した。
「そうですかぁ、それは残念です。小野さんとは是非またお会いしたいと思っていたんですが・・・、仕事が立て込んでいたもんですから、時間が取れなくて・・・」
私は封等を受け取りながら、素直に自分の気持ちを伝える。
「何でしょうね?この中身の事は何か言っていました?」
「いいえ、何も聞きませんでしたが、『北野さんにはきっと参考になると思って・・・』と、言っていました」
封筒の上から触ると本か雑誌のようだった。
「小野さんは私の事は何か言っていました?」
「ええ、北野さんと会われてから数日後に一人で見えたんですけど、その時、『本当に真面目で誠実な人ですね』と、言っていました。その後、『私の周りには彼のような人は少ないので大切に付合いたいですねぇ』とも言っていましたよ。それから、北野さんの奥さんの事も聞かれたので、数年前にご夫婦でいらした時の写真を見せたんです。そうしたら、『ほぉ、可愛い方ですね?とても人妻さんとは思えないなぁ、まるで旧家のお嬢様にしか見えないねぇ』と、言っていましたよ」
「あの時の写真があったんですか?」
その写真とは数年前に陽子を連れて来た時、記念と言って数枚撮ったことを思い出した。その後も数回来たことがあるが、ここ2年ほどはご無沙汰になっていた。
「その後、奥さんの話題になったので、私が『北野さんの奥さんは実際に旧家のお嬢さまで小学校から大学までS学園の卒業なんですよ』と、言うと、小野さんは何度も肯いていました。その後、『北野さんは幸せな人だね』と、言っていました」
マスターは棚からアルバムを出して、小野氏が写真を見せた。
季節は夏で、陽子はクリーム地に薔薇の模様がプリントされたノースリーブのワンピースを着ていた。一枚は私とペアで、もう一枚はマスターとママと私たち夫婦が4人で写っていた。陽子は微笑むとベビーフェィスに写る傾向にある。この時の写真も小野氏が『とても人妻には見えない』と言ったのは正直な感想だと思う。
しかし、私は別の意味で、小野氏が陽子をどのような目線で見たのか興味があった。
彼の連れの女性を何度か見たことはあるが、色白で髪は長めで、豊満なボディとまでは言わないが、ややぽっちゃり系が好みのようだ。
その基準から想像すると陽子は彼の守備範囲から外れるようだが、それが全てかどうか分からない。今度、会った時に聞いてみよう。

前頁 目次 次頁