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日記番号:747

夢は妻とともに…

傍観者(関東)


  感想集

家路

日が傾き始める少し前、私たちは吉沢さん夫妻に別れを告げ、自宅に向かいました。

「……ありがとう……」
『いえいえ!どういたしまして!ねぇ、それより今晩何食べようか?子供たちにも美味しいパスタを食べさせてあげたいな!』

「………大丈夫だったのか?っていうか…ごめんな……」
『………計画してたんでしょ。…もちろんわかってたわ、最初から。……』
「…う、うん……」

ウィンド越しに流れる道路脇の紅葉の色がとても美しい。
視界の隅で助手席のシートに深く座り直した妻。少し俯き加減に黙り込んでしまった。

「俺も今日始めて美佐さんと会ったんだけどね…まぁ…吉沢さんから人となりは聞いていたけど、ちょっとびっくりしたな……」
『………』
「綺麗な人だったね。それなの**」
『あなたは美佐さんが言っていたように、私を何人もの男の人に抱かせたいの?…』
妻が私の話を遮るように言いました。
この言葉を妻はどんな気持ちで言ったのでしょう…

「………」
『………』
「…あのね……」
『私、約束どおり見学に行くよ。…うん……』
「あ……うん」
『でもね……あなたが望んでいることまでは………』

無理を言っていること、甘えていること、当然分かっていました。
自分の欲求…欲望を満たす為のみに計画をたて、最愛の人である妻への配慮…いや女性への配慮を大きく欠いていることも当然分かっていました。
しかし、妻にあらためて断りの言葉を言われた私は、今日という日を取り繕いたい一心で言葉を見つけ出し…

「そうだよね……無理しな**」
『私たくさんの男の人に抱かれるなんて望んでいないし…想像付かないし……私、あなただけでいいの。……でも…あなたの望みを叶えられるのも私だけなんだよね……』

山陰で青みをました前方の風景に視線を向けたまま、妻は私に…自分に言いうかのように話を続けました。

『そうなんだよね?』
「うん…」
『大勢の人としている美佐さんの姿って…想像付かないけど、あんなに綺麗な美佐さんのしているところ見せてもらって、あなたも参加したいってことじゃないんだよね?』
「……??」
『それはダメですよ!絶対に駄目!!(笑)』
「……参加はしません。」
『ふふふふふッ!約束ね!!』
「じゃあ…」
『わからないわ……けど、約束どおり見学には行くよ…一緒に行く…。』

これ以上この話を続けることを止めようと、同時にお互い思ったのかもしれません。
子供の話、季節の話、仮病で休んだ会社の話などをしながら帰路を走りました。
心の中で、吉沢さん夫妻のパーティー見学でのハプニングを期待しながら…

そして、銀杏がすっかり葉を落とし、街の其処かしこで、赤や緑のフラッグやディスプレイが飾られ始めた頃、私と妻は指定されたホテルのラウンジで、指定されたとおりにチェックインをした後、これから踏み入る世界に緊張しながら吉沢さん夫妻を待っていました。

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