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日記番号:1073

淫の刻印

アスカ(京都)


  感想集

20 夫婦崩壊

あと一ヶ月後、単身赴任の日に、典子を、3年間の期間限定で、橘に譲渡する話しを榊は、説明した。一ヶ月は、主婦としての役割を、頼んだ。何気ない日曜の朝の空気が、凍てついた。
「橘さんからの提案なの?」
「ああ。橘さんの手元にいて、生活してほしい。」
「男達の都合が、最優先ね。いいわ。私も、仕事見つけるわ。橘さんに、お願いする。遊びまわらないように、橘さんに、拘束されるわ。」
「そんなつもりじゃ…」
「3年間は、二人の旦那さんが、いると割りきれば、いいのよね。」
「まあ…」

典子は、自室にゆき、出掛ける準備をした。行くあては、なかったが、一人になってから、橘に電話するつもりだった。
「あなた、出掛けます。帰りは、何時になるか、わからないから、食事は、自分で、考えてね。」
「えっ…ああ…わかった。」自宅マンションを出る後ろ姿は、綺麗だった。結婚して8年、妻が、遠い存在になるようで、不安が、増幅する。

ふっと振り向く典子。
「心配しないで、橘さんとうまくやるから。」
喉元まで、でかかった言葉が、ついに、言えなかった。
(愛してる…) いまさら…言えなかった。
きっかけを作ったのは、榊、自身だから。その事実は、曲げられない。

麻布の鳥居坂を下り、うつむき加減に、泣きたかった。声をあげて。
有名な女学院の前を通る時、朝練の女学生の涼やかな声が、聞こえた。将来に向け、希望に膨らむ娘時代を送らなかった典子にとって、それは、別世界のさえずりだった。

典子は、榊を今でも、愛してる。
(でも、どうして、次から次に、男に抱かれたいのだろう。私は、淫乱じゃないけど…突き動かされる衝動を押さえられない。女としての人格を否定され、暴力だけで、屈服し、凌辱されると、怖い反面、腰から溶けてしまうような黒い欲望が、湧いてくる。
まるで、獣が、仕留めた小動物を、すぐに、食べずに、もてあそび、いたぶっているように。強いオスに犯される事を、そして、荒々しく扱われたいと願っている。
優しく、いたわるようなSEXに、何の快感も感じない。)

ふと麻布十番の網代公園のベンチに座っていると、向かえのマンションの中二階にある下着屋さんの店先のショーウインドウに、純白のウエディングドレスと、その横に黒いガーターベルトをつけたマネキンが、妖しく典子を見つめていた。

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