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日記番号:510

新婚妻のアルバイト

リストラ亭主(横浜)


  感想集

寿退社

遙香は仕事だけでなく、個人的な悩みも全て私に相談してくれていました。
私は遙香が会社で何時誰に交際宣言をされ、誰が愛を告白し、誰に結婚の申し込みを受けたのか、その全てを遥香から直接聞いて、告白の一言一句まで詳細に聞いて知っていました。
また何時何処で誰にどのようなセクハラを受けたのか、をも全て漏れ無く私は聞いて知っていました。場合によってはどんな陳腐な言葉で愛を告白されたのかさえも、私は詳しく正確に知っていました。
私の小心な性格が成せる技と言うべきか、細かい性格故と言うべきか、遥香の悩みは全て事細かく、私の『遥香ノート』に、クロノロジカルに記録して残して置きました。
それは後で読み返してみると、それだけで十分に私を勃起させ興奮して射精させる程の刺激材料でした。

ノートを読み返して考察するまでもなく、遙香がどういう悩みを持っているのかその全てを、遙香の口から直接聞いて良く理解できていました。そんな遥香の告白ノートがあったので、後から若者の告白や、課長他の社員達のセクハラも、ハッキリと理解出来た上で、対策を的確にアドバイスする事も出来ました。
それは私が遙香を口説く時にやってはいけない方法論の全てを、遙香自身の口から直接教わっているようなものでした。私は遙香を口説く若手社員やセクハラ上司たちと同じ轍さえ踏まなければ、比較的容易に遙香を口説けるのではないかとさえ思い始めていました。

確かに私の考えは間違っていませんでした。
一年もすると遙香が会社内で信頼でき素直に悩みを打ち明けられる男は、唯一私独りだけになっていました。あとはただ遙香が考える男としての興味を、どうやって私に向けさせることができるのかと言う問題だけでした。
しかしそれとても日頃遙香が私に告白する若手社員の交際申し込みの方法や誘い方を聞いているだけで、私が取るべき戦術は明確に分かりました。しかしそれでも後ろ向きで消極的で内気な性格の私には、遙香に告白できるような機会はなかなか訪れませんでした。

私は遙香には同世代の男よりも少し年上の男の方が遥香には良いのかも知れないと、それとなく遙香の脳裏に印象付けていました。私は遙香の意識の奥深くに、私と付き合うときっと良い事が起こると言う、所謂刷り込みを続けていたのかもしれません。
結果として遙香は私が生まれて初めてする告白を、二つ返事で快く受け入れてくれました。と言うよりも、より正確に表現するのなら、私は遙香に誘導されるようにして遙香に告白させられていたのです。遙香はもう既に私との結婚を前向きに考えていたようでした。遙香が私に謎掛けを連続してするようにして、私は遙香への告白をさせられていた感じだったのでした。
しかし正式に二人の結婚の日程が決まるまでは、遙香と私は会社には内緒にして付き合いを続けました。


2008年1月に二人が結婚することを上司の課長に報告して、3月末で遙香は会社を辞め、6月にジューンブライドの遙香を妻に迎えました。
遙香との結婚を決めて有頂天になっていた私は、全ての人が私たちの結婚を心から祝福してくれているものだと信じて疑っていませんでした。
私たちはとても幸せな結婚を、皆に祝福されてするものだ、と本当に思っていました。
40歳近くまで一人の女も知らずに独身を通してきた私は、まるで乙女が夢見るように、結婚とは全ての人に祝福されてするものだとの勝手な理想像を思い描いていたのです。

まさか若手の独身社員全員が結婚式に出席していた席でも、私のよう に何のとりえも能力も無いアラフォーの独身者が、職権を使って遙香を口説き落としたのに違いない、と悪態をついていたのだとは思いもよりませんでした。しかし結婚式で有頂天だった私は若手社員の全てを敵にまわしただけではありませんでした。私のように冴えない中年男が会社で唯一のマドンナを射止めて結婚したことで、結果として会社の全ての社員、特にその大半を占める男性社員、私の上司の課長を含めてその全てを敵にまわすことになったのです。

ただ課長のセクハラが結婚を公表した後も日に日に激しさを増して露骨になっていったことから、遙香のたっての希望もあり結婚式前の出来るだけ早い時期に遙香が寿退社していました。新婚妻の遙香が寿退職して丁度一年後に、まさか私がリストラされて職を失なってしまうとは思っていませんでした。

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