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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

3章-5

隣室の淫声をバックグランドミュージックに私たち夫婦の営みをする。
隣の女の淫声に比べると陽子の声はやはり軽いと思う。それは未だ性生活の期間が短いのか、それとも私のテクニック不足で女として成熟していないのか、分からないが、たぶん、私に原因がありそうな気がする。
実際、私たちは処女と童貞で結ばれ、それから十数年その関係を続けてきた。私たちの間に他人が入り込んだことは無いし、それで十分に幸せだったと思っていた。
しかし、その夜を境に2人の心の奥にこれまで想像しなかった微妙な感情のずれが生まれ始めていた。
その契機となったのは隣室の異様な出来事だった。
私たちの営みは私が先に射精し、それに誘発されて陽子もオルガに達して終わる。
その夜も、いつもより早く私はフィニッシュが近いことを告げると、陽子が両足を私の腰に絡みつけてオルガを迎えに行く。そして、私が射精を告げると口から手を離し、「あん!あん!うううぅぅぅ」と、叫びながら両手両腕で私の身体にしがみついて頂上を迎える。口から手を離す時は本当にセックスに集中している時だ。つまり陽子の意識から羞恥心が崩壊した時の表現でもある。
やがて、陽子の手足が私から解かれて夫婦の営みが終わる。
隣室が夫婦と違う不倫カップルと分かってから、それが官能を刺激したのか、私も陽子も異常に興奮していつも以上の激しい営みになった。フィニッシュ後も気怠さが続き、しばらくそのまま体を横たえていた。
私たちの営みが終わると再び静寂が戻る。
隣室の性行為も終わったらしく、何も聞こえてこない。
「お隣さん、すごかったね?」
「そうねぇ・・・、不倫カップルを聞いたのは初めてよね?」
「うん、たぶん・・・」
「夫婦以外の人とのセックスって燃えるのかしら?」
「よく話に聞くけど、家で食べるカレーより、外食で食べるカレーの方が美味しく感じると言うだろう?でも、本当は家の方が美味しいのにたまに食べるから美味しく感じるだけなんだと思うけど・・・」
「ふぅ~ん、幸治さんは外で食べてみたいと思わないの?」
妻族の定型の質問だ。そして、夫族からの答えも定型なのだが・・・。
「それがあまり思わないんだ。3年目の浮気とか7年目の浮気と言われるけど、僕には関係の無い言葉だったよ。それに忙しくてそんな余裕が無かったし・・・。ヨーちゃんはどう?街で格好いい男性を見て何か感じることだってあるよね?」
「そうねぇ、専業主婦は暇だから、お花やパッチワークのお教室のお仲間とお話の
しいていると、話題はやはり男性のことが多いかしら・・・。中には実際にお付合いされている主婦の方もいるようだけど、それが楽しいかどうか分からないわ」
「でもさぁ、ヨーちゃんも女だから興味はあるよね?大学生の頃、ホテルのプールサイドで男のスイムパンツを見ていたことがあったよね?」
「ふふふ、憶えているわ。幸治さんが焼きもちを焼いて、その後ケンカしたことも・・・、でも、私の事を愛してくれているんだと分かって嬉しかった」
「今はどうかなぁ、ヨーちゃんが気になるような男性は近くにいないの?フィトネスクラブのメンバーでヨーちゃんの女心を乱すオジサンは未だ現れないの?」
さり気無く話しているが、今回の小旅行の目的は陽子の男性に対する関心度の変化を探ることだった。リーマンショックのドタバタが落ち着き始めた頃から離婚の噂が居酒屋での話題に出るようになった。
最近聞く離婚の原因は妻側の不倫が多くなったのに驚く。以前はもっぱら夫の浮気が多かったが、それも女性の社会進出の影響なのだろうか?
その中でも大学時代からの親友の離婚はショックだった。彼等とは夫婦同士の付き合いがあったから尚更だった。その親友からのアドバイスは私を悩ませ不安にした。
「まぁ、残念ながら・・・。でも、私が他の人とお付合いしていると分かったら幸治さん、どうする?やっぱり離婚するでしょ?」
陽子の口から出た『離婚』という言葉が胸に突き刺さる。
「そ、そんなに簡単に僕は離婚しないよ!それはヨーちゃんの気持ち次第だよ。もし、ヨーちゃんの気持ちが一時的な遊び心で、僕への愛が残っているなら、僕はヨーちゃんを絶対手放さないと思うよ」
「わぁ、ありがとう、幸治さん優しいのね。でも心配しないで、そんな事には絶対にならないから、私の事より幸治さんの方が心配だわ。もしも、外で子供・・・」
陽子は『外で子供』と言った処で止めた。やはり、心の何処かに不妊の事が離れないのだろう。
「僕が?まさか!僕が住んでいる世界には、女は陽子しか存在しないよ」
「まぁ、お上手な事。ご自分の奥さんを口説いてどうするの?そんなセリフを他の女性に言っていないでしょうね!」
「僕が口説くのは陽子だけさ!」
「うふふふ、変な旦那様ね」
妻は嬉しそうに私の手に指を絡めながら言った。
「ねぇ、お風呂に行かない?この時間だったら露天風呂も空いていると思うわ。二人でのんびりお星さまを眺めながら温泉に浸かりましょう!」
私たちがお風呂に出かけようとしたその矢先のことだった。隣室のドアが開いて声が聞こえて誰かお客が訪ねてきた気配がした。

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