1. 夜の彼方に咲く 信也
僕の妻、綾子は僕より2つ下の三十四歳。
出会った頃より、今の彼女はずっと美しい。
艶やかな髪、しなやかな肌、そして何より、彼女の身体からは、"解き放たれた女"の甘く熟れた匂いが漂っていた。
──それが、誰の手によって咲かされた花なのかを、僕は知っている。
ある夜、彼女のスマートフォンを、ふとした衝動で覗いた。
浮かぶ文字列。濡れた言葉。見たことのない顔文字。
そして、ある男の名。
【私、あんなに感じたのは初めてです】
【これまでの夫との営みは何だったんだろうって・・・】
その瞬間、胸の奥が震えた。嫉妬と興奮、羞恥と欲望。
ぐちゃぐちゃに入り乱れた感情の中で、
最後に残ったのは──
どうしようもない昂ぶりだった。
彼女の相手は、職場の上司。
単身赴任中の、元ラガーマンの課長。
僕とは違って、体格のいい男に抱かれ、綾子はあそこを濡らしながら、喘ぎ声をあげていたのだ。
始まりは2年ほど前らしい。
快感を教えられた妻は、その後、週に一度、あるいは二度、ラブホテルや彼のマンションで抱かれていたようだ。
当然、関係は深まり、Lineから率直な言葉が溢れ出す。
【昨日は乱れてしまって、思い出すと、顔が赤くなります】
【でもあれが本当のセックスなんですね】
付き合い始めて半年ほどすると、もっと直接的な言葉で悦びを伝えるようになった。
【昨日は、あなたの大きなもので、奥の方をいっぱい擦られて・・・】
【夫のものとは比べ物にならないくらい大きくて逞しいです・・・】
【私、避妊してるから、いっぱい出して・・・大丈夫……全部、受け止めるから】
1年が過ぎる頃には、その男は、綾子に別の男を紹介した。
【今度はこの男に抱かれてこい】
綾子はその命令に従い、ホテルに向かい、初めて会った男の前で服を脱ぎ、セクシーな下着姿であるいは全裸で性の奉仕を行う。
そして──その夜の出来事を、詳細にLINEで報告していた。
なぜだろう。そんな妻を想像するたび、喉が渇き、息が上がる。
家に戻った綾子は、何事もなかったように微笑む。
静かにキッチンに立ち、いつも通りに僕を迎える。
そして夜には、彼らに教え込まれた性技で僕を蕩かせ、自分も甘く啼くのだ。
腰の動き、舌の絡め方、吐息の間、以前とは明らかに違う。
綾子は避妊具を子宮に入れていると、彼らには話している。
けれど、僕にはそのことを黙っている。
「ダメよ。妊娠したら困るから」
そう言って、僕にはゴムを求める。
でも、彼らには……そのまま受け入れているようだ。
その事実に、僕は言葉にできないほどの感情を抱いている。
怒りではない。
悲しみでもない。
ただ──興奮だった。そう、もの凄い興奮だ。
綾子はもう、"僕の綾子"ではなく、"彼の綾子"であり、そして時にはまた"別の男の綾子"なのだ。
その事実が僕を興奮させる。
彼女が、他の男たちの指示に従い、淫らに咲き、そして僕のもとへ戻ってくるなら──
この関係を、僕は壊したくない。
永遠に続いてほしいとさえ思っている。
2. 夜の彼方に咲く 綾子
夫には、まだ気づかれていない──
そう思っていた。でも、時々、その瞳の奥に、言葉にしない何かを感じることがある。
あの夜のことを、よく覚えている。
最初はほんの出来心だった。
仕事帰りに飲みに誘われた課長。
酔った勢いでホテルに入ってしまった私に、言い訳はできない。
けれど、それは私の中の何かを──開けてしまった扉だった。
課長は、大きな手で私を抱いた。
それまでの私が知らなかった方法で、私を愛撫し、責め、そして命じた。
恥ずかしいほど、身体は反応してしまった。
気がつけば、週に1度、2度。
あの人の部屋、ホテル。
そして、いつからか私は、彼の言葉を待つようになっていた。
【今度、あの男に抱かれてこい】
最初は戸惑った。でも、断れなかった。
むしろ、身体が勝手に、期待していた。
知らない男と会い、ホテルに入り、命令どおりに服を脱ぐ。
こうして誰かのものになっていく私を、私はどこかで快感として受け入れていた。
そして、家に帰る。
いつも通りに、夫の前では優しい妻を演じる。
ご飯を作り、洗濯物をたたみ、さりげなく笑う。
──風呂上がりには、彼が選んだレースの下着を着け、膣奥に、まだ別の誰かの体液が残っている身体で夫に抱かれる。
夫とのセックスでも、以前よりも感じるようになっていた。
夫が私の身体を開発したのではなく、彼が開発したのに、それでも夫に抱かれると以前よりもずっと興奮するし、それを夫も喜んでくれている。
夫には話していないけれど、1年前に避妊具を入れた。
それ以来、あの人たちはコンドームなしで中に出すようになった。
夫に「生はダメよ」と言ったとき、どこか罪悪感を覚えた。
けれど同時に、私は昂ぶっていた。
私が夫に嘘をついて、他の男に抱かれ、あれを生で入れてもらい、体液を直接受け入れていること。
その事実が、私を女として、より深く目覚めさせていくのがわかる。
服の選び方も変わった。
メイクも、下着も、爪先も。
知らぬ間に、男の視線を浴びることに快感を覚えるようになっていた。
そして最近、夫の目が時々、私をまっすぐに見つめてくる。
もしかしたら……知っているのかもしれない。
けれど、問いただすことはない。
代わりに、優しく私を抱く。
その腕の中で、私は時々、こう思う。
夫は本当はすべてを知っていて、すべてを許してくれているのではないかと。
もし、そうだとしたら──
私たちはもう、「普通の夫婦」ではないのかもしれない。
でも、この秘密と快楽に満ちた関係の中で、
私は確かに、女として、妻として、生きているのだ。
3. 夜の彼方に咲く 信也2
──あの夜も、そうだった。
綾子は少し遅れて帰ってきた。
「残業が長引いちゃった」と言って、コンビニの袋を手にぶら下げていた。
ラップされたサラダと、発泡酒。それを並べて、「今日は簡単にしよう」と笑った。
キッチンで何気なく動く彼女の身体の、その奥に、誰かの体温がまだ残っているのだと思うと、胸の奥がぞわぞわと騒いだ。
彼女は、その日も、誰かに抱かれていた。
上司か、紹介されたセフレか、それは分からない。もしかしたら、客を取ったのかもしれない。そう最近は、セフレの命令でデリヘリもするようになっていた。
湯上がりの綾子が、静かに寝室に入ってきた。
僕はそのとき、もうベッドに横になっていたが、目は閉じていなかった。
「……ねぇ、する?」
ぽつりと、綾子が言った。
その声は、どこか濡れていて、そして少しだけ、許しを請うようだった。
僕は何も言わずに、彼女の身体を引き寄せた。
彼女は自分から脚を絡めてきて、僕の下に入った。
唇を重ね、肌を撫でる。
そのとき、わずかに匂う栗の花の香り。
入れた瞬間──わかった。
彼女の身体には、まだ、別の男の体液がたっぷりと残っていた。
それが僕のものにねっとりと絡みついてくる。
僕はそれを、ただ静かに受け入れた。
怒りも悲しみも、もうなかった。
あるのはただ、どうしようもないほどの──興奮。
「んっ……ぁ……信也……」
綾子は甘く喘ぎ、目を伏せる。
その瞳の奥に、一瞬、何かがよぎった。
後ろめたさか、あるいは……悦びか。
僕は、それを確かめようとは思わなかった。
むしろ、確かめたくなかった。
彼女の奥で、僕は動いた。
彼女はそれに応え、腰を揺らし、足の指をきゅっと丸める。
その顔には、確かに快楽が浮かんでいた。
けれど、それが"僕によるもの"である保証は、どこにもなかった。
──それでも、いい。
誰かに抱かれたあとの綾子を、僕が抱く。
彼女の身体にまだ残っている男の体液を、僕が舐める。
それは、倒錯かもしれない。
でも、たまらなかった。
僕は確かに、いまこの瞬間、彼女と最も深く繋がっていると思った。
僕の下で喘ぐ綾子は、もう"僕だけの女"ではない。
だけど、"他の誰かだけの女"でもない。
彼女は、夜の彼方に咲いたまま、また僕の腕に戻ってくる。
それが、この上なく──美しい。
僕の妻、綾子は僕より2つ下の三十四歳。
出会った頃より、今の彼女はずっと美しい。
艶やかな髪、しなやかな肌、そして何より、彼女の身体からは、"解き放たれた女"の甘く熟れた匂いが漂っていた。
──それが、誰の手によって咲かされた花なのかを、僕は知っている。
ある夜、彼女のスマートフォンを、ふとした衝動で覗いた。
浮かぶ文字列。濡れた言葉。見たことのない顔文字。
そして、ある男の名。
【私、あんなに感じたのは初めてです】
【これまでの夫との営みは何だったんだろうって・・・】
その瞬間、胸の奥が震えた。嫉妬と興奮、羞恥と欲望。
ぐちゃぐちゃに入り乱れた感情の中で、
最後に残ったのは──
どうしようもない昂ぶりだった。
彼女の相手は、職場の上司。
単身赴任中の、元ラガーマンの課長。
僕とは違って、体格のいい男に抱かれ、綾子はあそこを濡らしながら、喘ぎ声をあげていたのだ。
始まりは2年ほど前らしい。
快感を教えられた妻は、その後、週に一度、あるいは二度、ラブホテルや彼のマンションで抱かれていたようだ。
当然、関係は深まり、Lineから率直な言葉が溢れ出す。
【昨日は乱れてしまって、思い出すと、顔が赤くなります】
【でもあれが本当のセックスなんですね】
付き合い始めて半年ほどすると、もっと直接的な言葉で悦びを伝えるようになった。
【昨日は、あなたの大きなもので、奥の方をいっぱい擦られて・・・】
【夫のものとは比べ物にならないくらい大きくて逞しいです・・・】
【私、避妊してるから、いっぱい出して・・・大丈夫……全部、受け止めるから】
1年が過ぎる頃には、その男は、綾子に別の男を紹介した。
【今度はこの男に抱かれてこい】
綾子はその命令に従い、ホテルに向かい、初めて会った男の前で服を脱ぎ、セクシーな下着姿であるいは全裸で性の奉仕を行う。
そして──その夜の出来事を、詳細にLINEで報告していた。
なぜだろう。そんな妻を想像するたび、喉が渇き、息が上がる。
家に戻った綾子は、何事もなかったように微笑む。
静かにキッチンに立ち、いつも通りに僕を迎える。
そして夜には、彼らに教え込まれた性技で僕を蕩かせ、自分も甘く啼くのだ。
腰の動き、舌の絡め方、吐息の間、以前とは明らかに違う。
綾子は避妊具を子宮に入れていると、彼らには話している。
けれど、僕にはそのことを黙っている。
「ダメよ。妊娠したら困るから」
そう言って、僕にはゴムを求める。
でも、彼らには……そのまま受け入れているようだ。
その事実に、僕は言葉にできないほどの感情を抱いている。
怒りではない。
悲しみでもない。
ただ──興奮だった。そう、もの凄い興奮だ。
綾子はもう、"僕の綾子"ではなく、"彼の綾子"であり、そして時にはまた"別の男の綾子"なのだ。
その事実が僕を興奮させる。
彼女が、他の男たちの指示に従い、淫らに咲き、そして僕のもとへ戻ってくるなら──
この関係を、僕は壊したくない。
永遠に続いてほしいとさえ思っている。
2. 夜の彼方に咲く 綾子
夫には、まだ気づかれていない──
そう思っていた。でも、時々、その瞳の奥に、言葉にしない何かを感じることがある。
あの夜のことを、よく覚えている。
最初はほんの出来心だった。
仕事帰りに飲みに誘われた課長。
酔った勢いでホテルに入ってしまった私に、言い訳はできない。
けれど、それは私の中の何かを──開けてしまった扉だった。
課長は、大きな手で私を抱いた。
それまでの私が知らなかった方法で、私を愛撫し、責め、そして命じた。
恥ずかしいほど、身体は反応してしまった。
気がつけば、週に1度、2度。
あの人の部屋、ホテル。
そして、いつからか私は、彼の言葉を待つようになっていた。
【今度、あの男に抱かれてこい】
最初は戸惑った。でも、断れなかった。
むしろ、身体が勝手に、期待していた。
知らない男と会い、ホテルに入り、命令どおりに服を脱ぐ。
こうして誰かのものになっていく私を、私はどこかで快感として受け入れていた。
そして、家に帰る。
いつも通りに、夫の前では優しい妻を演じる。
ご飯を作り、洗濯物をたたみ、さりげなく笑う。
──風呂上がりには、彼が選んだレースの下着を着け、膣奥に、まだ別の誰かの体液が残っている身体で夫に抱かれる。
夫とのセックスでも、以前よりも感じるようになっていた。
夫が私の身体を開発したのではなく、彼が開発したのに、それでも夫に抱かれると以前よりもずっと興奮するし、それを夫も喜んでくれている。
夫には話していないけれど、1年前に避妊具を入れた。
それ以来、あの人たちはコンドームなしで中に出すようになった。
夫に「生はダメよ」と言ったとき、どこか罪悪感を覚えた。
けれど同時に、私は昂ぶっていた。
私が夫に嘘をついて、他の男に抱かれ、あれを生で入れてもらい、体液を直接受け入れていること。
その事実が、私を女として、より深く目覚めさせていくのがわかる。
服の選び方も変わった。
メイクも、下着も、爪先も。
知らぬ間に、男の視線を浴びることに快感を覚えるようになっていた。
そして最近、夫の目が時々、私をまっすぐに見つめてくる。
もしかしたら……知っているのかもしれない。
けれど、問いただすことはない。
代わりに、優しく私を抱く。
その腕の中で、私は時々、こう思う。
夫は本当はすべてを知っていて、すべてを許してくれているのではないかと。
もし、そうだとしたら──
私たちはもう、「普通の夫婦」ではないのかもしれない。
でも、この秘密と快楽に満ちた関係の中で、
私は確かに、女として、妻として、生きているのだ。
3. 夜の彼方に咲く 信也2
──あの夜も、そうだった。
綾子は少し遅れて帰ってきた。
「残業が長引いちゃった」と言って、コンビニの袋を手にぶら下げていた。
ラップされたサラダと、発泡酒。それを並べて、「今日は簡単にしよう」と笑った。
キッチンで何気なく動く彼女の身体の、その奥に、誰かの体温がまだ残っているのだと思うと、胸の奥がぞわぞわと騒いだ。
彼女は、その日も、誰かに抱かれていた。
上司か、紹介されたセフレか、それは分からない。もしかしたら、客を取ったのかもしれない。そう最近は、セフレの命令でデリヘリもするようになっていた。
湯上がりの綾子が、静かに寝室に入ってきた。
僕はそのとき、もうベッドに横になっていたが、目は閉じていなかった。
「……ねぇ、する?」
ぽつりと、綾子が言った。
その声は、どこか濡れていて、そして少しだけ、許しを請うようだった。
僕は何も言わずに、彼女の身体を引き寄せた。
彼女は自分から脚を絡めてきて、僕の下に入った。
唇を重ね、肌を撫でる。
そのとき、わずかに匂う栗の花の香り。
入れた瞬間──わかった。
彼女の身体には、まだ、別の男の体液がたっぷりと残っていた。
それが僕のものにねっとりと絡みついてくる。
僕はそれを、ただ静かに受け入れた。
怒りも悲しみも、もうなかった。
あるのはただ、どうしようもないほどの──興奮。
「んっ……ぁ……信也……」
綾子は甘く喘ぎ、目を伏せる。
その瞳の奥に、一瞬、何かがよぎった。
後ろめたさか、あるいは……悦びか。
僕は、それを確かめようとは思わなかった。
むしろ、確かめたくなかった。
彼女の奥で、僕は動いた。
彼女はそれに応え、腰を揺らし、足の指をきゅっと丸める。
その顔には、確かに快楽が浮かんでいた。
けれど、それが"僕によるもの"である保証は、どこにもなかった。
──それでも、いい。
誰かに抱かれたあとの綾子を、僕が抱く。
彼女の身体にまだ残っている男の体液を、僕が舐める。
それは、倒錯かもしれない。
でも、たまらなかった。
僕は確かに、いまこの瞬間、彼女と最も深く繋がっていると思った。
僕の下で喘ぐ綾子は、もう"僕だけの女"ではない。
だけど、"他の誰かだけの女"でもない。
彼女は、夜の彼方に咲いたまま、また僕の腕に戻ってくる。
それが、この上なく──美しい。