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小話番号75
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妻とのダイアログ

珊瑚七句 (東京都)   2005-02-16
  感想集

Ⅰ出会い
私が就職して5年目にヨーロッパのある支店に赴任することになりました。両親はこれを機に身を固めさせたい意向が強く、知人M氏を介して現在の妻とお見合いをしました。
彼女は私の赴任地に本部のあるミッション系某女子大の4年生でまだ学業を6カ月も残しています。
彼女の実家の在る某地方都市のホテルのティールームで双方の両親とM氏夫妻を交え本人とはじめて顔を合わせました。オリーブグリーン色の薄手のスーツを身につけた彼女は態度が非常に落ち着いており女子大生というより良家の初々しい若妻の風情であった。

しばしの語らいのあと二人はM氏の手配してくれた車でドライブに出掛けますが、シフトチェンジをするたびにタイトスカートから露出している彼女の膝頭に目が行きます。そんな気配を感じたのかどうかは分かりませんが、彼女は時折スカートの裾に手をやり居ずまいを正します。俯き加減になったうりざね顔の額から髪のはえぎわ、目鼻立ちと申し分のない美形です。私はどんな男が彼女と結婚するのかなーとまるで人ごとのように羨望の念でおもいました。
途中道を間違え田舎道を切り返しでUターンをするさい誤って左後車輪を側溝に落とすというハプニングもありましたが、ほぼ予定通りに目的地に到着しました。

昼食をとってから釣堀でニジマス釣りをしましたが、ほどなく彼女の竿に大物が掛かり縦横無尽に水中を走りまわり、隣にいる私の釣り糸にも絡みます。
彼女は両手を前に突き出しカラダをくの字にして、手首から先が竿の動きにつれて左右に揺れます。
「アラ、ダメヨー・・・助けて、ね、お願い。」と初めて女子大生の顔をのぞかせ私のほうを見ますが、私は張りつめた彼女のヒップラインにみとれていました。
「奥さん! カラダを真っ直ぐにして、そのまま腕を挙げて。」と遠くから管理人のおじさんの大きな声がします。
周りの視線を一身に集めた彼女は恥ずかしそうに「ハァーイ。」とこたえますが、首筋から耳たぶがほんのり桜色に染まります。

「もっと挙げて。」と管理人は網をもって彼女のそばに来ると簡単に30センチくらいのニジマスを取り込みます。
そして針を外しながら「奥さん、これくらいなら、塩焼きよりフライにすると旨いよ。フライにするなら捌いてあげるけどどうする?」と彼女に問いかけます。
彼女は当惑しながら私のほうを見るので、目線で頷くと「じゃーお願いしょうかしら。」と落ち着いた声でこたえます。
この‘奥さん’誤称事件を契機に初対面という垣根は自然となくなり帰りの車中では女子大生の乗りでいろいろ話しかけてきます。

「KMさん、あちらにはどのくらいおいでになるの?」
「4,5年らしいけど・・・2年で戻った先輩もいたし。」
「XXXX語お出来になるのでしょ?」と顔をのぞきこむようにして訊くので、まったく出来ない旨を伝えます。
「わたし高校のときから必修でしたの。」とからかうようないたずら顔で私を見ます。
「一緒に来てくれると助かるね。でもこればっかりは神のみぞ知るですね。」と私は自分の気持ちをやんわり伝えますが彼女は前を向いたまま何も答えません。
その後彼女の提案で駅前の喫茶店に入ります。マスターと顔馴染みらしく挨拶を交わすと、店内の2,3人の客にも目礼を送ります。
彼女の学生生活などとりとめのない話を30分くらいして店を出ますが、通い慣れた喫茶店に私を案内したことで先ほどの婉曲なプロポーズに彼女なりの意思表示をしているのかなと思うと自分のカラダが自分でないような不思議な感覚に襲われました。

Ⅱ転機
 結婚10年目に妻が子供のピアノの先生(某大学の講師48歳)に言い寄られる事件が起こりました。発表会の打ち合わせということで一人で自宅を訪ねると、奥さんが不在の様子なのでいやな予感がしたそうです。以前先生のリサイタルのとき受付を任されその打ち上会で“ありがとう”と必要以上に手を握られたことがあったようです。
 楽譜を渡し妻にひと通り弾かせると、今度は一小節ごとに曲想をどう表現するか文字通り手を取るように、彼女がスキンシップをどこまで許すかを瀬踏みするような感じで指導したそうです。スコアーと演奏テープを応接セットのテーブルに置くと、回り込むようにして妻の隣に座り楽譜を目で追い注意事項を説明しながら書き込みをします。
「3週間お子さんを指導したらよこしてください。様子をみますから。発表会にはN教授も見えますから、紹介します。」とテープとスコアーを妻に手渡します。
妻が礼を言いながらそれをバックに入れようとしていると「ところで奥さん、“色白は七難を隠す”という意味を知っていますか?」と唐突に言い出します。
妻が「何でしょうか?・・・・」と訝しげげに聞くと「それはね、こういうことですよ。」といきなり強引に抱き寄せられキスをされそうになったそうです。

「もういやだわ、つぎは何をされるか怖いわ。」
「音楽家はそういうシチュエーションを芸術的発露のエネルギー源にしている人も多いよ。挨拶がわりだよ。」
「今度も受付を頼まれたのよ。“来年は親子で連弾に挑戦しましょう”ですって。私は先生のお弟子でもないのにね。失礼しちゃうわ。」云いながらも満更でもない様子。
「状況によっては相手の意に沿ってあげたら。」と軽く言うと
「あなた本気で云ってるの!」と少し気色ばります。
「もちろん、今日みたいに詳細に事後の報告をしてもらうという条件付だがね。」と動揺を悟られないように落ち着いて答えます。
「あなたは女がどういうものか分っていないのよ。もしその人を本気で好きになったらあなたどうするの。家庭崩壊ですよ。私は自分の性格が分かっているから怖いの。男の人に興味がないという訳ではないのよ。向こうにいる時だって・・・」
「N子が受験のとき教授になっているかもしれないし、この世界コネだとか後ろ楯はあったほうがいいからね。」と私は云います。
「どんな宗教でも姦淫を戒めのひとつとしているでしょう。人間の長い営みのなかでつちかわれた真実なのよ。」
「ひとに迷惑を掛けない範囲なら“夫婦生活にタブーはない”ということも普遍的な認識になっているね。夫が認めても姦淫になるのかなー。」と私は切り返し
「戒律を破るという禁断の木の実の甘さを知っているのも人間だけだし・・・」と付け加えます。

「とにかく、私はそういうこと否定する環境で育ったのよ。結婚前は何人かの男性とお付き合いはしましたけどカラダを求められても許さなかったの。どうしてかわかります?」と私をのぞきこむようにいいます。
「子供の頃からオバーチャンに“女のカラダは大事な嫁入り道具だから、お医者さん以外の他人には触らせちゃだめよ”といわれて育ったの。」
「君が処女であったことは神に感謝している。結婚以来真白いキャンバスを自分の色で精一杯染め上げることが出来たからね。」
「しかし、その絵を見てみると清楚で整った感じだが何かが足らないような気がしてならない。筆のタッチか、色使いか。もう自分の能力を超えているよ。」
「他の人にもっとメリハリの利いた筆つかいで加筆修正してもらえればもっとすばらしい絵になるのにというのが僕の心境だよ。」
「あら、ものは言い様ね。その白いキャンバスさんが清楚のままにしておいてといっているのよ、あなた。」といっこうにかみ合いません。

このようなやり取りを繰り返しながら三年が経過します。
 昨年取引先の大手上場会社の部長を接待した帰りの車中で部長が「ところで奥さん元気、いつだったかなー君に奥さんのお惚気話を随分聞かされたなー。写真まで持ち出して。」と思い起こすように「ああいうときは、冗談でも“宜しかったらお味見をどうぞ”というのが気配りだよ君。お土産あっての土産話だよ。」と二本目のウヰスキーのミニボトルを開けながら云います。
「それはどうも至りませんで。来月で35歳になる妻ですがよろしければいかようにとも・・・」と応じます。
部長は瞑目しながら二度三度頷きながら「ちょっと酔っているけど、まじめな話だから良く聞いて。」と私の耳元に口先をもってきて「一度でいいから奥さんとやらして。」と囁きます。
「もちろん奥さんの意向もあるから・・・魚心あれば水心だよ、この線で奥さん説得してみてよ。美人妻を持つと気骨がおれるね。」と私の心中を見透かすように言います。

このイキサツを妻に話すと「あなたが持ち掛けたのではないのでしょうね?」といいそれを否定するとほっとした面持ちになります。
「K子、今までのことは置いといて頼むよ。相手はM社の重役候補の部長だよ。紳士だよ。大学時代はラクビーの花形選手だよ。二人目の男として君にふさわしいよ。」
「紳士が何故そんな要求をするの。だいたいあなたが軽率なのよ写真を見せるなんて。」
「軽率だったことは謝る。とにかく、相手が君の事を見染めてしまたんだから・・・ね、一度でいいから。仕事の上でプラスになることは君にとってもプラスになることだから。」と両手をついてアタマを下げます。
しばらくの沈黙があって「あなた、本当に一度だけですからね。あなたの趣味にお付き合いするのは。」と意を決した表情で言います。
「絶対に約束する。部長だって健全な家庭人だし後腐れはないよ。」といいながら妻の手を取ろうとすると、それを遮るようにして
「あなた、今日から私が部長さんの一夜妻として抱かれるまでは指一本触れないでください。これは女としての私のケジメですから、部長さんにあなたの誠意を汲みとっていただくためにもね。」と私を諭します。
 
二人は別室で寝起きして3週間の禁欲生活をすることになります。この間私は妄想に悩まされ寝不足気味で体調不良になりますが、妻の方はいつもより生き生きして見えるので
「ホルモンの分泌がいいみたいだね。髪の艶もいいし、化粧の乗りもいい。毎晩部長に抱かれるイメージトレーニングでもしているの?」と揶揄すると図星を指されたのか「あなたのためにね。」と顔を赤らめます。
「入浴のときお塩で全身を磨き込んでいるのよ。足の裏や膝の角質もとれてすべすべよ。カラダが引締まっていくのが分かるの。」と嬉しそうに話します。

毎日サウナに通い肉と魚を断ってパンと野菜と果物を主食に4キロの減量を果たします。
「やっと元のカラダにもどれたわ。ねーあなた、今日サウナにいったら私のカラダオレンジの香りがするのよ。明日大丈夫かなー。」と心配そうに云います。
「心配ないよ。部長にそれとなく話しておくから。あそこも同じ匂いがするのかなー。」
「いやーねー、あなたたら!」と私に流し目を送ります。
「ところで顔を見たこともない男に嫁ぐ心境はどう? 男と女の間には禁じ手はないからね。大人の世界だからね。男の下半身には人格はないから。ピアノの先生を見ればわかるでしょ。」と妻に言い聞かせます。
「心配だわー。ちゃんとお給仕できるかしら。」
「心配ないよ。君のほうから動くことはないからね。初夜の花嫁でいいから。部長のリードに身を任せて。」
「夫婦の間では当たり前の行為も、初対面の男にとするときは恥ずかしいのが普通だからね。戸惑いとか、恥じらいとか、君のありのままを出せばいよ。」
「行為の最中は夫のために戒律を破っているのだという意識を頭の片隅に持つと情感が高まるよ。甘さをより引き出す為に塩を加える感じ。」
「いやだわー。そんなこと。」
「経験したことのないような行為を要求された場合は“許して”とか“堪忍して”とかやんわり甘えるように断ってね。そうすれば流れが止まらないし、部長も次の手がうてるから。男は君が思っている以上にナイーブだからね。」
「例えばどんなこと?・・・」
「小道具を使うとか・・・アナルをもとめるとか。そんな性癖はないとおもうけど、“下半身に人格なし”だからね。」
「いやーよー、そんなこと。あなた立ち会ってくださいね。」と本当に不安げな顔で言うので
「君さえ良ければ願ったり叶ったりだね。」と本音を言います。
「私、本当にあなたの為にするのですからね。」とすがりつくような目で念をおします。
「お嬢さん育ちの君に辛い思いをさせてすまないと思っている。神様はすべてご存知だからね。僕の責任だから。」
こんな会話をした翌日その日を迎えました。

妻が部長の枕席に侍り夜伽(一夜妻)をした様子は雑記帳{頁番号:21}表題“案ずるよりも産むが易し”に記載したとおりです。

Ⅲ部長の後日談
「写真より美人なので驚いたよ。XX宮妃殿下といった感じだもん。育ちがいいのだね。」
「奥さん子供のときから、人の視線を感じながら成長したのだよ。そんな感じがするなー。」
「あの最中にことばを投げかけると奥さんのカラダが緊張するのが分かるよ。名器だね。神は二物を与え賜うか。」
「“だめよー、許してー”なんてあの表情で言われと男なら誰でも我慢出来ないね。」
「アダルトビデオのからみなんてもう馬鹿らしくて見られないよ。」
「君も頑張って出世しなくちゃ。奥さんを世俗の垢に染めちゃだめよ。僕もできる限り協力するから。」