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日記番号:892

愛する妻を堕した男

志保の夫(首都圏)


  感想集

431. 禁断の扉

<美和夫人の秘事③>
美和夫人は電話を切った後、ぐったりとしてしばらく起き上がることが出来なかった。これほど緊張したことは無かった。
電話を切った後もまた新たな緊張感と不安が夫人に襲いかかってきた。
(水曜日に〝あの男〟と本当に会うの?)
(確かに約束はしたけど、会わなければならない理由はない)
(あまり悪意は感じないけど、私たちとは違う世界に生きている人たちだからやはり怖い。私たちの世界の常識が通用するかしら?)
(逆に違う世界の人だから魅かれることもある。どんなセックスをするのかどんなふうに私を責めるのか好奇心が刺激される)
(野獣のような体格とオチンチンは私をこれまでとは違う刺激的快感を与えてくれそうに思う。今回逃したら二度と出会えない気がする)
美和夫人は2日間悩んだと言う。
しかし、悩めば悩むほど〝〟あの男に対する興味が深まっていく。それはセックスだけでは無く、彼の職業にも興味があった。
今は一般的に〝露天商〟と呼ばれるが、〝テキヤ〟とか〝ヤシ〟と呼ばれて、商売人の中では一段低く見られていた人たちである。
美和夫人が魅かれた理由の一つとして、上層階級に育った女性が彼等と個人的接触を持つことは非常に稀有なことだ。
事実、夫人はこれまで夜店や露店で食べ物や買い物をした経験は無かった。他の子供たちが楽しそうに屋台の焼きそばやリンゴ飴を食べているのが羨ましかった。ただ一度だけ〝金魚すくい〟をしたことがあるが、その金魚も1週間ほどで死んでしまった。
美和夫人は金魚の命を短くしてしまったのは自分のせいだと悩み、それ以後は生き物を飼うことをやめたと言う。
水曜日の朝、夫は東京へ出張し、子供たちも学校に行った。
心の中では待ち合わせの場所も決めていた。
問題は電話をするか?約束を反故にするか?携帯電話の画面を見つめながら考えたが結論を出せない儘に時計は10時半を回っていた。
美和夫人の周りには中流以上の生活をしている専業主婦がいて、その中には夫以外の男性と親密に交際している女性も数人いることは知っている。彼女たちの恋人も社会的に評価されていて、しかも家庭を持っている男たちだ。
しかし、今日、自分が会う約束をした男は男性の職業として社会的な評価が高いとは言えないし、他の人たちに話すこともできない。
携帯電話と睨めっこしていると、突然コール音が鳴り、ディスプレーに友人の名前が出た。彼女も夫の転勤で東京から大阪に引っ越してきたフィットネスクラブの友人の一人だ。
「美和ちゃん、私、ケイコ、おはよう。今日これから時間があるかしら?あのねぇ、今日から阪急ホテルでスペイン料理のランチバイキングがあるんだけど、一緒に行きませんか?」
いつもの有閑マダムたちからの誘いだ。
その時、美和夫人が咄嗟に出た返事「ごめんなさい、今日、お昼にお友達と会う約束がありますので、またの機会に誘ってください」だった。
友人からの誘いの電話を断ったことで心が決まったという。
美和夫人の心の中では〝あの男〟のウエイトが高かったのだ。
友人との電話を切った後、夫人は男の電話番号を押す。前回とは違い、意外と落ち着いていた。
コール音2回で男が出た。
「やっ!待っていたよ!レイコさんだよね?」
「キタガワさん?」
「今日、会えるよな?どこに迎えにいったらよろし?」
あのずっしり重い男の声が軽く感じた。
「モノレールの南摂津駅11時30分ごろでいいかしら?」
「モノレールの南摂津?よっしゃ、これからすぐに出るよ。ワシの車は軽ワゴンで色は青だからすぐに判ると思うよ」
「あのぅ、3時には家に帰らないといけませんので・・・」
「よう分かっていますがなぁ、お子さんが学校から帰るまでにデートを終わるようにしますがなぁ」
「それに、なるべく他の人に見られないようにお願いします」
「それも、ちゃんと心得ていますがな、心配せんでよろしい、ほんじゃ!」
男は電話を切った。
美和夫人は夫や子供たちが出かけた後、外出の用意はしていた。
下着は扇情的にならないように薄いブルーで統一し、洋服も白のブラウスとベージュのジャケット、スカートは紺の膝が少し隠れる丈のフレアーにした。
自宅から南摂津駅までは30分くらいだ。
時計を見ると11時少し前だった。
キタガワと言う男は会った後、何所に連れて行くつもりなのだろう。
会う場所をモノレールの南摂津駅と言った理由は周りが工場地帯で日中はあまり人通りが多くないだろうと考えただけで、この辺りは行ったことが無いのでまったく分からない。また、彼の寝屋川も一度も通ったことがないので、どんな所か分からない。
たぶん、彼はモーテルに連れ込むつもりだろうと思うが、その辺りに存在するかどうかも分からない。
吹田市に近い所では茨木インター近くの国道沿いにモーテル街があることは知っていて、夫とは何回か行ったことがある。もしかしたら、キタガワさんもそこに行くかもしれない。
家を出かけるとき、個人情報を知られる物は一切持たなかった。
携帯電話をどうするか最後まで迷ったが、もしも突発的な事が起こった時に備えて持つことにしたが、念のためロックを掛けて、他人から見られないようにした。バックの中身は最低限の化粧道具とわずかな現金だけを持った。
普段、モノレールに乗ることはほとんど無い。
モノレールを使うときは伊丹空港に行く場合に限られる。
モノレールで門真方面に行ったことは今回が初めてだった。この時間、乗客は少ないが、朝は摂南方面の工場地帯に出勤する人たちで混むんだろう。
モノレールは約20分で南摂津駅に到着した。
そこは発展途上地域で駅前にいくつかの店と飲食店あるだけでまったく賑わいは感じられなかった。
駅の改札口を出るとロータリーがあり、その外れに一台のブルーの軽ワゴンが停車していた。
美和夫人が近づくと、ドアが開いて男が出てきて、片手を上げた。

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