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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

96章-2

スケジュールでは、4月の宿泊出張は広島支店だ。
会議終了後は期の始まりでもあるので懇親会が予定され、それに参加することになる。
いつもなら、小野氏から連絡があって、陽子との一夜を過ごす同意を求めて来たが、今回は何も無い。
小野氏は陽子から私の宿泊スケジュールを聞いていないのかもしれないし、小野氏とのコンタクトそのものが稀薄になっているのだろうか?
Y氏(山本氏?)からのデートの申し込みがあったかどうかは判らないし、また確認のしようも無い。陽子とは先週約束したので、何かあったら話をすると思うが・・・。
何も無いことが日常的には普通の事なのだが、心の奥底では新たな非日常的な刺激材料事を求めている自分がいる。
夕食の後のんびりテレビを見ていると、陽子が何か言いづらそうに話しかけてきた。
「今週の土曜日に佳美さんからお食事に誘われたの。ちょうど湘南の白子は旬なので白子料理をご一緒にいかがですか?って・・・」
「ふぅ~ん、それで・・・、安田さんも一緒に?」
佳美が陽子を誘う目的は安田氏が背後にいることは容易に想像できる。
「たぶん、でも・・・わたし・・・」
陽子が消極的な理由は昨夜の態度で分かっている。
「そうだよね?ちょうど始まるんだよね?確か・・・」
「そうなの、だからどうご返事をしていいのか・・・」
「目的はセックス?それなら、はっきりとそう返事すればいいじゃないか。それがダメと言うならそれはそれでいいと思うけど・・・」
「それが、佳美さんはエッチのお話しでは無くて、旦那さまとご一緒にどうですか?と言うの。それで返事に困って、貴方が帰宅したら相談してご返事します、と答えたけど・・・、どうしましょう?」
想定外の相談に驚く。
安田氏グループから私たちへの誘いは、私としては最も避けたい事だった。
小野氏との交渉を始めた時から、婚外セックスは陽子だけで、私は参加するつもりはまったくなかったし、陽子が体験した後も私の気持ちは変わっていない。
私が彼等と交遊すると、陽子の婚外セックスは夫公認になってしまう。〝寝取られ族〟としては、婚外セックスは秘密裏に行われた方が刺激的だ。秘密裏に行われるから女も男も特別な感情を抱くのであって、公認になってしまうと単純に肉体的な快楽だけになってしまう。また、緊張感も薄くなるのでオープンになり、第三者の目に触れる機会も多くなる。
「うぅ~ん、それはちょっと拙いなぁ、なるべくなら、僕は表に出たくないんだ。もしも、僕が彼等と会うことになったら、僕は妻を他人に提供する〝変態夫〟になってしまうんだよ。それでは相手の男も他人妻の操を奪うとか、人妻を寝取るという緊張感が無くなるし、〝背徳の悦楽〟も半減してしまうんじゃないかなぁ。やはり婚外セックスは裏でコソコソの方がいいんじゃない?」
「ふぅ~ん、そうなの?私にはよく分からないけど・・・、それじゃ、お外でのセックスは私だけがするの?」
「僕はそう思っている。陽ちゃんが楽しんでくれたら僕はそれだけで嬉しい」
「でも、何だか私だけが悪い事をしているみたい・・・、それで、なんて返事をしたらいいの?」
「うぅ~ん、一緒に会うのはいいけどさぁ、あの人たちには、僕は何も知らない夫にしてほしいんだ。もちろん、陽ちゃんが安田さん別荘で犯されそうになったことも、佳美さんが安田さんの愛人であることも、何も知らないことにしてほしい。もし僕が彼等と会うことになったとしても、3月の伊豆旅行で妻が世話になったお礼を言うためだけ、としてもらいたいんだけど・・・」
「確かにそうよねぇ、自分の妻を弄ぶ男の人に夫が会いに行くのは不自然だわ。分ったわ、佳美さんに『夫には何も話していないし、何も知らないからご配慮をよろしくお願いします』と伝えるわ」
私は安田氏に会うことになったが、私の頭の中では彼等への疑念が渦巻いていた。
なぜ彼等は私と陽子をグループに取り込もうとしているのか?もちろんメインターゲットは陽子であることに変わりはないのだが、私まで引き摺り込む目的がまったく解らない。
元々、安田氏のグループメンバーには夫婦はいない。
安田氏と佳美は愛人関係、山本氏と美紀・愛華は客とホステス、小野氏と陽子は愛人関係である。もちろん、女性は今回の伊豆旅行で初めて出会った者たちだ。
私は小野氏から『安田さんグループは公的な連携をベースに企業活動しているが、私的な繋がりとして彼女の共有もしている兄弟なような関係です』と、聞いている。
時々、メンバーが集まって破廉恥パーテーを楽しんでいるらしい。
そのようなグループに陽子が巻き込まれたのはまったくの偶然である。
私と小野氏は新宿のスナック《タッキー》の常連客同士で、私が探していた妻への〝男のワクチン〟を注射してくれる最も相応しい男として新たな付き合いを加速した。
陽子がグループの中に取り込まれて新たな体験をすることは想定外だったが、現在のメンバーの範囲内なら大きなリスクにならないと考えていたし、新たな刺激を提供してくれる人たちでもある。
しかし、『夫婦で参加』はまったく想定外のことだ。
なぜ私たちだけが夫婦で?
陽子が目的なら小野氏とのカップルでも良いではないか?
私を参加させる目的は何か他の理由があるのか?
私を取り込もうとする目的はセックスのようなプライベートな事では無い。私が財閥系の大企業の社員ある、つまり公的な仕事での係わりを期待してことは大いにある。
しかし、私の業務は彼等が生業としている不動産や建築とはまったく接点が無いし、彼等が最も重要とするファイナンス部門とも関係は薄い。
彼等にとって私はメリットがある存在とは思えないのだが・・・。
日曜日の夕方、私たちは安田氏に会うために出かけた。小田急の特急で行くと乗換が無いので楽だ。
片瀬江の島駅に着くと安田氏と佳美が出迎えていた。
その後、江の島が見える海鮮料理割烹の個室が用意されていた。
初対面の挨拶をした後、伊豆旅行時のお礼を言って、会食が始まる。
私はあくまで安田氏と佳美が夫婦であることを前提に会話をする。
話し上手の安田氏が次々と話題をリードして行く。バブル崩壊と共に多くの中規模の不動産会社は消滅して行った。しかし、その激動の時期を乗り越えて会社を存続させている安田氏はやはり能力があるのだろう。話題は社会情勢や文化、趣味と幅広く、緊張していた私も彼の話術に取り込まれていく。
時々仲居さんが入って来るので話題は取り留めにない話が中心となる。
2時間ほどで食事が終わり、タクシーで数分の距離にある安田氏のリゾートマンションに行くことになった。
今回、私たち夫婦を招待した目的は会食では無く、その後の事であることは分かってはいるが・・・。

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