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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

3章-3

その日、私たちに用意された客室は奥から二番目の部屋だった。これまで宿泊した奥の客室は和洋室でツインベッドを置いた部屋と和室の造りとなっている。しかし、今回は予約が遅くなったので取ることができなかった。
この客室は和洋室となっているが元々は二間続きの和室だったようだ。2つの部屋を仕切っているのは襖で、欄間は広く開放されているので遮音効果はほとんど無い。
10時を過ぎて、私たちが寝室に入ると、隣室では既に行為が始まっている気配を感じた。
陽子が私の顔を見て、「まぁ、もう・・・」と、淫らな微笑を浮かべて言う。
「どんな夫婦かな?きっと僕たちより若いカップルかもしれないね?もしかしたら眠らせてくれないかもしれないよ」
「貴方ったら、嬉しそうな顔をして・・・」
「そう言うヨーちゃんもエッチな顔をしているよ」
(はぁ~、あぁ~ん、いやぁ~ん、そこは・・・、いやいやぁ~、そこはぁ~だめぇ~よ・・・、あっあっあっあぁ~・・・だめぇ~)
隣室からは時々女が何かを訴える声が聞こえてくる。声の質から想像するとあまり若くは無い。たぶん40代?
「今、お隣は何をしているのかな?」
わざと陽子に問いかける。
これも私たち夫婦が営みに入るきっかけになる。
「いやぁ~ね・・・、男の人がナメナメしているんでしょ?」
「それだとしたら、この女性は年齢の割にはすごくウブだと思わない?」
「どうしてそう思うの?」
「だって、夫婦だったらそれを拒むような事を言う?ヨーちゃんも初めの頃は嫌がる振りをしたけど、今はあんなことは言わないだろう?」
「幸治さんたらイヤミなひとね。『初めの頃は嫌がる振り』だって、本当に恥ずかしかったのよ」
「そうだとしたら、お隣さんは夫婦じゃないね?中年の不倫カップルかな?」
男がまた何か言っているのが聞こえる。
ボソボソと男の声も聞こえるが、何を言っているのか判らない。
情事には愛の睦言が付きものだが、男性の言葉はほとんどの場合聞き取れない。時々、終盤盛り上がった時に、(よし!よし!)、(ほら!ほら!)とか(逝け!逝け!)のような女性のオルガを誘導するような掛け声が多いが、この時は男からの話かけがいつもより多いと感じた。
(あっあぁぁぁ~、あああぁぁぁ・・・)
突然、女性の叫ぶような甲高い淫声が聞こえた。
「入れられたようだね?」
陽子が黙って肯く。
その後、女性の声が止み、男のつぶやくような声だけが聞こえる。
「男の人、何を話しているのかしら?」
「ちょっと悪趣味だけど聞いてみようか?」
私は壁に直接耳をつけて聞く。

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