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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

3章【温泉宿】-1

胸の中で無心に眠る妻を見ていると何事にも代えがたい幸せを感じる。
15才の少女も今は33才になった。
結婚して10年を経たが神は家庭・家族の全ての幸福を私たちに与えてくれなかった。
足りない家庭・家族の幸福、それは子供であった。私たち夫婦には子供が授からなかった。その原因は陽子の不妊症だった。
医師をしている姉正子の夫を介して、不妊治療専門医の治療を受けたが、結局成功しなかった。断念した理由はいくつかあったが全ての生命倫理を否定してまで子供を作る必要性に疑問を持ったことと、それ以上の治療を続けることは陽子への精神的負担が非常に大きくなった。私たちは夫婦で話し合いを重ね、また園田の両親とも相談して、これ以上治療を続けることが難しいと思い、夫の私が最終的に判断をした。
夫婦の絆は子供を作ることが全てでは無い。『例え子供がいなくても、2人の愛を更に深く大きく育むことで夫婦が幸せになれる』私はそう言って陽子を説得した。
それから私は陽子と過ごす時間や会話を多くする努力をした。
その頃から気分転換と称して私たちはよくデートや小旅行をするようになった。目的は陽子の気分転換だけでは無く、夫婦のコミュニケーションを密にする効果もあった。小旅行と言ってもほとんどは鄙びた温泉や秘湯の一軒宿でゆったり過ごす事を好んだ。そのようなマニアックな温泉を選んだ理由は温泉マニアやカップルの利用が多く、子供連れの家族が少ないからである。今回宿泊した旅館もその一つである。
その甲斐があってか陽子の精神状態も次第に安定して、結婚前の明るい陽子に戻った。また、日常生活で2人の間でわずかな気持ちのすれ違いを感じた事を話し合うことで愛情を確認も怠らなかった。
旅館に到着して食事前に温泉に浸り、部屋で夕食をいただく。テレビはニュース以外にあまり見ない。
その後は持参したDVDプレヤーで映画を見たり、他の話題で時間を過ごす。
そして奥の寝室での営みで夫婦愛を確認して眠りに就くのが通常のパターンだが、行為の後の汗を流すために大浴場に行くこともある。
その日もこれまでと同じパターンで時が過ぎた。
DVDを観て、寝室に移動するところまではいつもと同じだったが、私たちが愛の行為を始めて間もなくこれまでとは違う時間が流れ始めた。それは私たち夫婦の常識では想像出来ない異様な情況を想像させる物音や人の声が隣室から聞こえてきた。

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