メニュー ログイン

日記番号:844

DELETE

幸治(都内)


  感想集

13章【淫らな空間】-1

小野氏とは会えなかったが、それでも私は安堵と満足感があった。
それは小野氏が私の事で気遣いをしてくれたこと。そして、中身は判らないがたぶん、先日色々語り合った話題に関して私が参考になる本をプレゼントしてくれたことだ。
先日ボックス席で真面目に話し合った内容に関係する本だろうから、哲学や経済のような堅い内容では無いだろう。たぶん、夫婦関係や不倫に関係する内容だろうから電車の中では開かなかった。
その代わりと言う訳では無いが、スナックでもらった小野氏の会社が所有している貸し別荘やコンドミニアムのパンフレットを見る。
一般の賃貸住宅物件の紹介パンフレットの様式とほぼ同じで、間取り図とそれぞれの設備や備え付けの家具調度品が写真付で載っている。
今夜、小野氏は人妻とこの別荘で一夜を過ごすという。その彼等と別荘の浴室や寝室写真と重ね合わせると急に淫らな情景に変わる。しかし、小野氏の具体的イメージは浮かぶが、連れの人妻はまったく想像がつかない。
私の頭の中では小野氏と同伴している30代の人妻が陽子に代わり、その別荘の写真の中に入って行く。
3週間前、スナックで会ってから、陽子の相手は小野氏に代わっている。それ以来、あの醜いメタボ中年男の幻影は完全に消滅した。陽子の相手として中年男の魅力の全てを備えている小野氏の方をイメージした方がリアリティがある。
小野氏の引締まった体に包み込まれるように抱かれて、喘ぎ悶える陽子の白い裸身の方が絵になる。
テラスでワインを飲みながら談笑する2人、ジャグジー風呂の中で抱き合う2人、そしてベッドで抱き合う2人。全ては私の妄想が描いた世界だが、2人は楽しそうだ。
そして、その2人を私が覗き見ている。
スナックでこのパンフレットを見て最初に浮んだイメージがより具体的に投影される。何故か息苦しいほど胸の鼓動が大きくなり、それが甘味な刺激に変化して下腹部に血流を集め始める。
ハッと気が付いて顔を上げるとOL風の若い女性と目が合う。その女性も私が広げていた別荘のパンフレットを見ていたようだ。彼女もその写真を見ながら恋人との一夜を想像していたのかもしれない。私と目が合うとサッと顔を逸らした。
陽子の生理もそろそろ終わる頃だ。
あの露天風呂事件の月は陽子の性周期にも影響して1週間も遅く始まった。
少女の頃から比べると生理前の感情の振幅はだいぶ小さくなったが、それでも感情を抑えきれずに私のちょっとした言葉や態度に過剰反応して当たることがある。出会った頃はその理由が解らずに戸惑ったが、それが彼女の性周期と分かってからはあまり刺激しないようにしている。その逆に生理が終わると精神的にハイになり、気持ちも行動もイケイケになる。後で気が付いた事だが、私たちの男女の距離を縮める行為は全てこの時期と一致している。
最近では露天風呂事件がちょうどその時期だった。
もし、あれがダークな時期だったら、隣室の淫らな行為に関心を持たなかったし、露天風呂にも行かなかったかもしれない。
その後の寝室の淫らな会話も生理前のダークな時期には嫌悪感を示すが、その時期が終わるとノリノリになって私の妄想の世界に入って来る。
日常の衣類の色やデザインもはっきりと違いが出る。ダークな時期はズボンに地味なデザインのアウターで色も暗い色調だ。ハイな時期は20代の女性が着るようなシフォンのスカートと明るい色調のアウターを好む。
その傾向は夜着も同様で、ダークな時期はパジャマでハイな時期はネグリジェに変わる。そのネグリジェも最もハイな時期は肌の露出が大きいセクシー系になる。
たぶん、今夜は普通のネグリジェだろう。それは、営みが解禁されたサインでもある。
私の心の中で次第に大きく膨らみ続ける淫らで不道徳な欲望を陽子はまだ気付いていない。寝室の中で時々出て来る『もしも・・・遊び』は夫婦だけの淫らな妄想遊戯であって、現実の世界では無い。
それに、陽子の中で、他の男と言えばあの露天風呂の男しかいない。
陽子には小野氏のことはまったく話していない。
これからどのようにして陽子の意識の中に小野氏を擦り込んで行ったらいいのだろう。

前頁 目次 次頁