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日記番号:892

愛する妻を堕した男

志保の夫(首都圏)


  感想集

5.北海道旅行

私と妻の最初のデートはまったく意外な場所でした。
7月になると大学は夏休みに入ります。これまでは最初の1ヶ月は都内でバイトをして8月のお盆を郷里の実家で過ごすのが習慣でした。
その年もその予定でしたが母の体調が良くないとの知らせもあり、バイトも7月末で切り上げて8月早々に帰省をしました。
私の実家は地方公務員で姉が嫁いでからは両親は2人だけで生活していました。
私も来春就職したら東京か遠い地方勤務になるので、今だけでも親孝行しようと思っていました。
母は肺がんの手術後の回復が思わしくなく、抗がん剤や放射線療法等で入退院を繰り返しています。
帰省した私は父の食事の世話や掃除洗濯係りです。

そんな実家での生活をしていましたが、帰省して間もなくの8月の初め、私宛に1枚の葉書がきました。
差出人は中川志保とありました。
文面は可愛い丸文字で書式は暑中見舞いになっていますが、その内容は
>お元気ですか?今日から北海道旅行に出かけました。その途中、札幌に寄りたいと思っています。突然ですみませんが、浅井先輩にお会いしたいと思っています。ご都合はいかがでしょうか?<
連絡先として携帯電話番号が記されていた。その頃、携帯電話は急速に普及しつつあったが学生の身分で持っている人は少なかったと思うし、私が携帯電話を持ったのも会社に入って2年目で最初はポケベルだった。
実際、志保の携帯も旅行中の緊急連絡用として母親の物を借りてきたと言っていた。
私は早速その夜電話をした。
彼女はその時登別のホテルにいた。
私からの電話と知ると、とても嬉しそうに話してくれた。
志保は高校時代の親友と二人だけで北海道旅行に出発し、飛行機で函館に到着した後に洞爺湖や昭和新山を巡り、今夜は登別の旅館にいた。明日は支笏湖を回って夕方に札幌に着くと言う。
あまり急だったので驚いたが、私も特に用事があるわけでもないので札幌駅で待ち合わせることにした。
ちょうど土日なので、食事の支度や母の世話は父がしてくれるので比較的時間の余裕があるので、観光案内役をすることを約束した。
大学のクラブ活動と違って周囲の目を気にしないで志保と会えると思うと心が浮き立った。もちろん、札幌には私の高校時代の友人もいるが、ただ1人を除いて気を遣う人はいない。私が札幌で唯一気になるのは大学2年まで付き合っていた元の彼女だけだ。(この話は別の章で語るつもりなので今回はスルーする)

翌日、父の車を借りて札幌に向かう。
志保はカニの甲羅のような大きなリックサックを背負って改札口を出てきた。そして、私を見つけると恥ずかしそうにニッコリ笑った。
大学構内では見たことがないジーンズと北海道をプリントしたTシャッツ、腰にサマーセータを巻いている。夏の北海道でよく見かけるスタイルだ。
ただ、改札口を出てきたのは彼女1人だけで一緒にいるはずの友人の姿は無かった。
友人は札幌を素通りして旭川に向かったとのこと。大雪山に登ることが目的のようです。日曜日には富良野プリンスホテルで合流することにしたと言っていた。
いずれにしても私と志保は夏休みの2日間を東京以外の地で過ごすことになったのです。
そして、それは恋愛ゲーム好きの気まぐれビーナスか悪戯好きの妖精パックの仕掛けか判りませんが、私たちの一生が決まる2日間でもあったのです。

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