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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

12章-4

「小野さんは親しい女性とその別荘に行くことがあるんですか?」
「たぶん・・・、そうだと思います。この店で一緒の女性と相談していたことを聞いたことがありますから・・・」
「それが小野さんが女性を口説き落とす常套手段ですから・・・。小野さんは都内のホテルは使わないそうよ。もし、相手の旦那さんに現場に踏み込まれたら言い訳が出来ないから、都内で会う場合は食事だけで、メイクラブは軽井沢か箱根の別荘にしているそうよ。それを聞いた時はさすがに本物のプレーボーイと思ったわ。人妻は自宅に近い所での不倫相手と会うのは気持ちが落ち着かないのよ。都心や自宅から離れた場所で、しかも他人と顔を合せなくてもいい別荘はそれだけで心が動かされるのよ。それに1泊となると、不倫に対する躊躇いが無くなるの。いわゆる〝開き直り〟ね。小野さんって、本当に女性の気持ちを掴む達人ね?」
「これが、小野さんの会社が所有しているコンドミニアムと貸別荘のパンフレットですよ。小野さんと親しくなれば通常料金より割安で使えるかもしれませんよ。もし、気に入ったら持っていってください」
マスターは綺麗なカラー刷りのパンフレットを見せてくれた。
開いて見ると、これまで話の中に出てきた、軽井沢、箱根、伊豆の他にも宮崎や沖縄のコンドミニアム、それにハワイのコンドミニアムも載っていた。
美紀ママが話していたように、別荘はカップルか小家族を対象にした間取りが多い。マスターが言っていた通りで駅から近く、それでいて別荘地らしい静寂な森に囲まれてロマンチックな雰囲気だ。ハワイのコンドミニアムの所有戸数は5戸で、それら間取りは1LDK3戸と2LDK2戸となっていた。料金もホテルよりだいぶ安く設定していた。主にカップル客をターゲットにしているようだ。
室内の設備や家具・装飾はママが言っていた通りで、シックで落ち着いた配色の中に女性客を意識したロマンチックな雰囲気を演出している。
居間の小さな暖炉、ロココ調の家具やシャンディリア。フリルを多用したカーテンやベッドカバー。白い壁には淡い色調の絵画がさり気無く飾られ、窓の棚には一輪挿しに花が飾られている。
「なかなかいい雰囲気でしょう?今度、奥さんと一緒に行ってみたらいいですよ。きっと奥さんも喜びますよ」
「そうですねぇ、温泉旅館が続きましたから、たまにはこう云う所もいいかもしれませんねぇ・・・」
マスターの話を聞いた振りをしながら、私は心の中では別の情景を思い浮かべていた。
この深紅のカバーに覆われたダブルベッドに体を委ねるのは私と陽子なのか?それとも・・・。その男の幻影を消そうとしたが、自分の思いとは別の意識がその幻影をクローズアップさせる。その男とは小野忠雄・・・。

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