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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

12章【あの男に】-1

作者挨拶
いつもお読みいただき有難うございます。
文章の基本構成で言うところの《起・承・転・結》のうち、1~11章の《起》の部分ではプロローグとバックグラウンドを記述しました。
12章から始まる《承》の部分では妄想から現実に経験した非日常的体験を主題に記述して行きます。
引き続きご愛読いただければ幸いです。
北野 幸治


新宿のスナックで小野氏と話をしてから約3週間が経過し、世間は長年続いた不況からやっと脱出の兆しが見え始め、昨年のクリスマスより街の装飾が派手になったように感じた。そのクリスマスも過ぎて街は新年を迎える準備を始める。
あと数日で今年も終わる。
協力会社との忘年会の帰りに新宿のスナックに足が向く。
もしかしたら小野氏に会えるかもしれないと期待もあった。
友人の大倉からのアドバイスが私の心の中で急にその比重を増している。
『陽子ちゃんになるべく早く〝男のワクチン〟の予防接種した方がいいぞ。俺みたいに手遅れになる前に』
〝男のワクチン〟や〝予防接種〟が何を意味しているか理解はしているが、それが具体的にどうしたらいいのかまったく見当がつかない。はっきり言うと、陽子に〝男のワクチン〟を注射する候補者がまったく思い浮かばないのだ。
私の交遊関係は仕事関係者を除外すると、ほんの数名程度になってしまう。サラリーマンで特別な個人的趣味を持っていない人は同じ業界以外の人との接点はほとんど無い。休日のゴルフや釣りも仕事の延長上であり、音楽や読書に至ってはまったく個人の趣味である。それを客観的に示すデータとして年賀状があるが、90%以上が会社や業界関係者で、その他は親戚、高校、大学時代の友人だ。この人達を除外すると新宿のスナックのマスターしか残らない。
初めは〝男のワクチン〟をアドバイスしてくれた友人の大倉の顔が浮かんだが、再婚したばかりの新婚さんに頼むことは不可能だ。立木マスターは年齢的に無理がある。
色々考えるが果たして私が想定している理想の男はいるのだろうか?
インターネットの出会い系サイトは数えきれないほどあるが、全てが怪しく感じる。
『安全で信頼できる日常社会で接点が無く、私の意図を理解してくれる男。できれば陽子好みの男であれば理想的なのだが・・・』
そんな都合の良い男を見つけることができるのか?
私の心の中で、先月会ったばかりの小野氏の存在が次第に大きく膨らみ始めている。
『小野氏ならこの難問についてアドバイスをしてくれるのでは・・・』と、期待し始める。
たった一度しか会っていない男なのに、私には全てを解決してくれる救世主のように見える。
(この次、小野氏にあったら、友人からのアドバイスの意味や先日話した温泉旅館で会ったカップルの事をもう少し詳しく話してみよう。そうすれば、私が悩んでいる妄想についても何らかの解決方法を考えてくれるかもしれない)
もし、今夜、スナック《タッキー》にあの男がいたら・・・。
緊張で足が震える。

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