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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

10章-2

親友の奥さんのユキさんは大学卒業後、語学力を生かして外資系企業に就職したが、出産を機に退職して専業主婦として育児に専念していた。
しかし、育児も一段落したので、以前の職場の上司でもある取締役からの誘いもあり、契約社員として再び勤め始めた。そして、その男と不倫関係に発展したらしい。
離婚に至った直接の要因となったのはユキさんの妊娠だった。ユキさんは最初の子供を産んだ後、何故か2人目を希望しなかったと言う。
『男の子を産んだのだから私の義務は果たしたわ。もう子供はいいでしょう?』と、言って夫婦生活では避妊をしていたと言う。
大倉は長男なので実家からのプレッシャーは相当大きかったらしい。元々、ユキさんの性格は外向的で仕事が好きだったし、会社での評価も高かったようだ。出産を機に退職した時も、将来子育てが終わったら復職する希望を持っていたようだ。
ユキさんが復職の相談をし始めたのはリーマンショックのドタバタが未だ収まらない頃で、大倉も会社で海外戦略プロジェクトメンバーとして寝る暇もないくらいの激務だった。それにアメリカに出張する事も多かったので、ユキさんとのコミュニケーションや相談を聞く時間もほとんど無かったようだ。
この頃は業種によっては程度の差はあっても多くのサラリーマンは同じような状況にあった。それに加えてリストラという恐怖の暗雲が頭上を覆っていた。普通のサラリーマンなら家庭を顧みる余裕は無かったのが実情だろう。
大倉はその日の事をよく覚えていなかったが、ユキさんが復職する相談に同意したらしい。そして、ユキさんは保育所と契約して会社勤務を始めた。ただし、正社員としてでは無く勤務時間の自由裁量が認められる契約社員として勤め始めた。上司は退職前と同じ上司で、その男はユキさんが復職した時は取締役に出世していた。
その男は私も記憶にある。友人の結婚式で新婦の職場の上司として来賓挨拶をしたことを憶えている。背が高くガッチリした体型で日に焼けた顔はハーフらしく彫が深く格好いい男だった。その上話も上手く上品なジョークを織り交ぜたスピーチはさすがに外資系の幹部社員と感心した。
ユキさんが勤めを始めて半年経過した頃から夫婦の間に違和感が生まれ始めたと言う。彼女が夫の求めを避けるようになった。初めは会社勤めと家庭の仕事で疲れているのだろうと思っていたが、その間隔が長くなり、たまの営みでもほとんど反応をしなくなった。
そして、勤めを始めてから2年経ったある日、突然、ユキさんから離婚の話が出た。それは相談では無く一方的な通告だった。彼が理由を聞く前に妊娠の事も告げられた。
「お腹の子は100%貴方の子ではありません。だから、すぐに離婚してください。○○(友人の子供の名前)は貴方が養育してください。私は今日、出て行きます。あとは弁護士さんとお話してください」
大倉はあまりに突然のことで状況を理解出来ずに呆然としていた。そして、ユキさんの部屋に行くと彼女の持ち物は綺麗に無くなっていたと言う。
その後、お互いに弁護士を立てて交渉したが、結局、離婚以外の選択肢は無かった。子供は大倉の実家が預かり彼が再婚するまで養育することになったと言う。
最後に大倉が語った言葉が私の心に重く圧し掛かる。

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