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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

9章-2

あのカップルが私たちに与えた影響は大きかった。
私たちはそれまで自分達が営んでいるセックスが標準的でそれで得られる快楽も互いに十分満足していると思っていた。なぜなら、私も陽子も他人のセックスを知らなかったからである。
隣室の中年カップルの激しいセックスと快楽を叫び、更なる快感を求めて訴えるリアルな淫声を聞いて、自分たちの営みにこれまでに無い疑念が生まれた。それは性的快楽がもっと激しく深いものであることを知らされたことだ。
初めは、私たちとは住む世界が違う変態カップルの異常なセックスと思っていたし、陽子も「あの人達は普通の人達じゃないわ」と、言っていた。
しかし、次第に話す内容に微妙な変化が出てきた。それ以前に私の中に何かを恐れる気持ちが生まれ、それが時間の経過と共に大きな不安に変わっていた。
「あの女性の声は演技じゃないかも・・・、たぶん、女性はあの時は多少演技すると思うの。でも、あの時の声は本当に感じているんだと思ったわ」
「女って、セックスの時でも演技するの?」
「あのね、お友達から聞いたことがあるけど、あまりその気にならない時に求められたら断るのも悪いし・・・、だって男の人が一生懸命頑張っているのに感じなきゃ悪いでしょう?だからそれに応えるふりをするんですって・・・」
陽子は週2回フィトネスクラブと子供の時から日本舞踊の教室に週1回通っている。『お友達』と、言う時はそこで知り合った人達を指すことが多い。その他に、学生時代の友達もいるが、その場合は個人名で話す。その場合は私も面識があるのでイメージが付きやすい。
フィットネスクラブの友人は陽子と同じ専業主婦で場所柄有閑マダムと呼ばれている人種で、他人の噂話やゴシップ等の井戸端会議が好きな連中のようだ。その中で陽子は若いのでオバサマ連中とは距離を保って、その輪にあまり深入りしないようにしていると言っている。
『セックスの演技』の話も、そのオバサマ達から聞いた話なのだろう。
「ふぅ~ん、それでヨーちゃんはどうなの?僕としている時に・・・」
「ううん、私はほとんどないわ。でも、確かにあまり気分が乗らないこともあるけど」
「それは僕も感じることはあるよ。女の体って正直だから・・・、でもさぁ、男ってそれが分かっても止められないんだ、ごめんね」
「ううん、いいの、幸治さんが私を愛してくれている証しだもの・・・」
「それでヨーちゃんはどうして隣の女が本気で感じていると思ったの?」
「うん、それは声の大きさじゃ無くて息遣いなの。お腹の中から絞り出すような息と声が一緒に出て来るの・・・。女にはそれが何となく分かるの・・・」
「ふぅ~ん、そんなもんなんだぁ」
「驚いたわ・・・、女ってあそこまで感じるものなんだなぁって。あのねぇ、このお話もお友達から聞いた事だけど、中年の女性が痴情のもつれで相手の男性を殺す事件が起きるけど、一度本当にすごいセックスの快感を教えられたら、何事にも代えられないくらいに執着するんだって、それ程セックスって女を狂わす魔力をもっていると言っていたわ。そのお話を聞いた時はかなり大げさにと思ったけど・・・、でも、何となく分かるような気がしたわ」
それは正しく私が恐れていた言葉だった。
私たちが初めてセックスしてから14年も経過したが、当時と比べてそれ程進歩したとは正直思えない。私たちはやっとその事に気付いたのだ。
気付いたのはセックステクニックだけでは無かった。
その後の露天風呂で、陽子は私以外の男のペニスを初めて見知った。
その時の印象として、「オチンチンの形って違うのね?今まで形って皆幸治さんと同じと思っていたので本当に驚いたわ」
私たち男は温泉等の大浴場ではあまり前を隠さないので比較できる。平常時ではあるがそれぞれ個々の特徴があることを知っている。中には平常時であるにも関わらず正しく〝馬並み〟の男もいるし、下腹部の内側に隠れて見えない男もいる。
あの夜、陽子が見た男のペニスは標準より大きく、しかもED治療薬の効果で勃起した状態だった。少なくとも胴回りは私より太く全体として大きく見えた。
陽子は比較した表現はしなかったが、「すごかったわ、本当にあの連れの女性の中に入ったなんて・・・」と、かなり衝撃的な印象だったようだ。

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