メニュー ログイン

日記番号:582

私たちの消せない記憶

うげんこう(東京都西部)


  感想集

31 走馬灯

又寝返りを打って、もう起きようかと思っていたら妻が「寝られないの?」と突然言った。
疑惑にさいなまれ、汗をかいているところを知られたくないと思ったので「うん結構寝たようだから」と静かに言った。
すると妻から手を伸ばしてきたので、その手を握り返し「寝られないのか?」と言うと小さな声で「うん」と言った。
私は熟睡しているとばかり思っていたが、本人が一番悩んでいるのだろう。
あの室内灯に照らされ、車から降りた時のにこやかな顔、あの男に肩を抱かれて私を見たときのひきつった顔。
そんなことが走馬灯のように頭の中を駆け巡り、消し去ろうと強く握った手の中で妻が泣いていることに気がついた。
どこかで、間違ったことに苦しんでいるんだろうと思いながら、抱きしめて髪をなでると胸に顔を埋めて激しく泣きだした。
何かを言っているようだったが、何をいっていたのかはわからない。
ただ、ごめんゴメンと何度も言っていたのはわかった。

前頁 目次 次頁