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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

7章-5

「小野さんはご結婚されているんですよね?」
「はぁ、それが今は一応独身です。まぁ、以前は結婚していたと言った方正確かもしれませんが・・・」
「失礼しました。余計な事をお聞きしました」
私の心の奥では(やはりそうか、結婚生活が上手く行かなかったのはこの男の浮気癖が原因だろう)と思った。私は男の浮気が原因で離婚した人間はあまり好きにはなれない。そのような下半身にだらしない男は何度結婚しても同じことを繰り返すことが多い。それは結果として相手の女性を傷つけることになる。この男もそんな人種の一人だろう。
しかし、私はこの後の小野氏の話を聞いてこの男のイメージが変わった。
「北野さんは私の離婚原因が私の浮気と思ったでしょう?」
私の頭の中を覗いたように私の思っている事をズバリ言い当てられた。
「はぁ、失礼ながら、先ほどの妙齢のご婦人とご一緒されているところを見ていますから・・・」
「まぁ、それが常識的な見方だと思います。しかし、信じていただけるかどうか分りませんが、原因は妻の方だったんです。妻が他の男の子供を妊娠しまして、その男の元に走ったんですよ。この経緯は当時から親しくお付合いしているこの店のマスターとママが良く知っています」
「ええ、そうなんですよ。小野さんの奥さんやその相手の男性もよくこの店に来ていただいていましたから・・・。その三人から別々に相談を受けて本当に驚きました。もしかしたら私どもにも責任があるのでは?と悩みました。しかし、今となっては神様の悪戯としか思えません」
小野氏の離婚話は少し長くなるので要約する。
小野夫妻には子供がいなかった。その原因は小野氏が無精子症だったからである。一方で〝その男〟も妻側の不妊症で子供がいなかった。このスナックで何度か顔を合せているうちに親しくなり、お互いの悩みを打ち明けるようになった。初めの頃は3人で仲良く飲んでいたが、次第に小野氏の奥さんと〝その男〟の2人だけで会うようになり、結果として小野氏の奥さんが妊娠した。しかし、その時点では小野氏には離婚する気持ちは無く、中絶しないで生まれてくる子供は小野氏の子供として育てるつもりだった。初めは〝その男〟も認めていたが、〝その男〟の妻は同意せず、逆に親権を求めてきた。
直接関係の4人とマスターとママが中に入り相談・調停した結果、小野夫人が〝その男〟と結婚することになり、〝その男〟の妻に多額の慰謝料を支払うことで決着した。
小野氏は奥さんを愛していたが、奥さんの心が既に小野氏より〝その男〟に傾いていたことを知って潔く離婚を認めたと言う。
この話を聞いて、私は身震いをした。その話は決して他人事で聞き流すことが出来なかった。
不妊症、不倫、離婚、私たち夫婦にも十分起こり得る話である。

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