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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

7章-4

美紀ママは当時を懐かしむように話す。やはり、あの頃の華やかな時代は忘れられないのだろう。
「そうねぇ、今になって思うと恥ずかしいくらいすごい格好していたわ。でもそれがイケテイル東京の女のファッションだったのよねぇ。下着も衣装の一部だったから、ディスコに行く時はノーブラでTバックが常識なの。中にはベビードールのようなスケスケの超ミニドレスにスキャンティだけという子もいたわ。当然、その子の周りには男の子が集まるの。それがイケテイル女のバロメーターと勘違いしていたのよ。でもその快感を体験した子は今でも忘れられないでしょうね」
「当時は美紀ママも王女様をやっていたの?」
「まぁね・・・、そりゃモテたわよ。毎日、日替わりで男の子が尽くしてくれるし、お財布にはバブルで儲けたオジサマ達が補充してくれたわ。昼間はショッピングして夜は明け方まで遊ぶの、そりゃ天国よ」
美紀ママは遠く昔を懐かしむような目をして話す。
当時の若い女性たちが大いにモテた話はこれまでも色々な人達から聞かされてきたが、いつも不思議に思っていたのはその男達はその事に対して期待する見返りはあったのだろうか?
「あのぅ~、その頃の女性は取り巻きの男性には何でお返しをしていたんですか?」
失礼とは思ったが、ずばり直球で聞いた。
「そりゃ、あれしかないでしょう。女の最大の武器ですわ」
マスターが親指を人差指と中指に挟んでニタリと笑う。
「まぁ、そういうことね・・・。でも、当時の風潮として罪悪感はまったく無かったわ。別に売春をしていた訳ではないから、毎晩、メイクラブをしている感覚だったわ。ドライな子は数人のオジサマと愛人契約していて、その合間に若い男の子とも遊ぶの。そのアレンジを自慢する子もいたわ。それぞれの男達が皆オンリーだと思わせるテクニック自慢を・・・」
「当時はただでセックスさせるのはバカらしいと感じる風潮だったから、女子高生がバージンを100万円で売っていたと聞いた事もあったね。初めの頃は女子大生が主流だったけど、後半は女子高生になっていたね。あの若い娘たちは自分たちの価値を知っていてバカな大人たちを振り回していたんだよ。夜の12時を過ぎた六本木のディスコビルの周りは女子高生とそれを漁る男達がたむろしていたよ。今思うとなぜ警察が取り締まらなかったか不思議だよね?」
立木マスターが真面目な顔で言う。
「そうねぇ、当時は若い学生さんや若いOLさんはみんな派手に遊んでいたわ。だから当時の外国人には〝イエローキャブ〟と軽蔑されていたらしいけど、当の本人達はまったく気付かなかったわ」
「バブルの狂乱は東京とか大阪のような大都市での話で、私のように田舎から出てきた貧乏学生にはまったく雲の上の出来事でしたよ」
「北野さんのおっしゃる通りでして、そんなバカ騒ぎをしていたと言おうか、出来たのは一部の業界の男達なんですよ。象徴的だったのは不動産や証券関係だけで普通のサラリーマンの人達の多くは地味な生活をしていたんです。中には株で儲けた人もいたでしょうけど、その人達はその後の株価下落でスッカラカンになりましたから・・・」
「小野さんは不動産の会社を経営していますよね?かなり儲けたんでしょう?」
「ええ、その頃はオヤジが社長をしていましてかなり儲けたようです。それで、私もその恩恵を受けて遊び回りました。ただし、オヤジは先見の目があって、儲けた金で中小のビルを買い漁って賃貸に回したんです。ちょうどバブルが崩壊して不動産の投げ売りの時期だったんですね。結果として、それが現在の資産となっています。中小のビルは大型ビルと違って小回りが効くんです。それにビル管理は専門の会社に委託していますので人件費を抑えることができます。バブル期に手を広げた同業者の多くはその後の銀行の貸し剥がしと人件費で消えて行きました。うちの会社は自己資本率が高かったのと固定費が低かったので長い不況にも耐えられたんです。それでまぁ何とか今日まで生き残りましたよ、はははは」
小野は余裕を含んだ笑いをする。しかし、私たち大企業に勤めるサラリーマンの評価は決して高くは無い。財閥系や電鉄系の大手不動産会社はともかくとして、小野氏のような中小の不動産屋を『どこか卑しい連中』と、見下している気持ちが頭の隅に持っている。小野氏と出会った当初の私もそんな気持ちを持っていた。
(もし、このサイトの読者の中で中小の不動産業の人がいたらお詫びします)

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