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日記番号:844

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幸治(都内)


  感想集

7章-2

立木マスターの『人妻浮気論』の論理展開は説得力があった。
しかし、妻側の不倫の根拠は理解したが、相手がいなければ不倫は成立しない。
ストレス過多の夫が他に不倫相手を見つける余裕があるだろうか?私は単純な疑問を感じた。実際、私の周りを考えてもそれほど余裕がある人は思い付かなかった。
私はその疑問をマスターに投げ掛けた。
「それは北野さんの世界であって、世間には人妻をこよなく愛する人や彼女達を追い求める〝人妻専科〟の男達がわんさかいますよ。何しろ人妻は独身女性と違って結婚を求めませんし、それに安全だし割切って遊べますから。まぁ、付き合う目的がセックスですから、その他に余計な気を遣うことも無いですし、お互いに飽きたらそれでジ・エンドで後を引くこともありませんからね。奥さんは旦那のところに帰ればいいわけだし・・・。うちの店には実際に人妻さんとお付合いしているお客さんもいますから、何かの機会に聞いてみたらいいですよ」
ちょうどそこにさっき人妻らしき女性と店を出て行った中年客が帰ってきた。
「お帰りなさい、ちょうどいい処に帰ってきましたね。どうぞ、こちらに掛けてください」
マスターは私の隣の椅子を薦めた。
「実はちょうど今、こちらの北野さんと人妻の浮気について話していたんですよ。それで北野さんが『人妻と付き合う人はどんな男性か知りたい』と、聞かれましてね、ちょうどそこに小野さんが帰ってきたんですよ」
「はははは、私が世の人妻を誘惑する男の代表ですか?そりゃ、参りましたね」
『小野さん』と呼ばれた男は低く落ち着いた声で応えた。これまでも何度かこの店で一緒になったことがあるが、言葉を交わすのは始めてだ。こうして間近で見ることも、意識して相手を見る事も初めての事だ。
身長はたぶん175センチはあるだろう。何かスポーツで鍛えているようで肩幅が広く、全体にガッチリ締まっている。顔は日焼けして黒く見えるが、それが陰影となっていわゆるソース系にも見える。頭は少し薄くなっているが年齢としては標準より濃いほうかもしれない。着ているダブルのジャケットは渋めで内側の少し派手系のシャッツと程良いバランスでおしゃれに着こなしている。たぶんブランド物で揃えているだろう。それに薄い茶色のメガネがちょい悪系オヤジを演出している。これなら、確かに女性にモテそうだ。

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