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日記番号:892

愛する妻を堕した男

志保の夫(首都圏)


  感想集

22.2個のスキン

「温かい飲み物がほしいね」
冷たい飲み物はスーパーで買ってきていたので、それでも良かったのだが、スキンの箱をきっかけに重くなった雰囲気を変えたいと思った。
「そうね、私が入れるわ」
志保も何かきっかけが欲しかったように、すぐにお茶の用意を始めた。しかし、動揺は隠せない。
せっかく入れたお茶碗をひっくり返したり、それを拭こうとしてテーブルに頭をぶつけたり散々である。やっと弁当を食べ始めて落ち着きを取り戻した。
よっぽど空腹だったらしく、その食欲はさっきまでの恥らう少女から想像できない姿だった。
食事が済んで、私がシャワーを浴びると言うと、また不安な顔になって私を見る。
私は志保に考える時間を与えたかったし、自分の気持ちを落ち着かせる意味でシャワーを浴びたかった。それよりも汗臭いままで志保を抱きたくなかった。
実際にこのわずかな時間は色々な意味で良かったと思う。
私はビキニブリーフを穿いてバスタオルを腰に巻いてバスルームを出た。
部屋の照明はベッドの足元灯以外は全部消されていて、暗くバスルームの照明が明るい光だった。
志保の姿を探すと、ベッドのブランケットが盛り上がっている。バスルームのドアを閉めると暗くなるので少し隙間を作ったが、「全部閉めてくだい」と志保のこもった声が聞こえる。
「閉じたら暗くて何も見えなくなるよ」と答えると、「だって・・・恥ずかしいもん・・・」と言う。
仕方なくバスルームのドアを閉めて、窓のカーテンを開ける。窓からは運河沿いの街燈とレストランのネオンが水面に反射して、その光が下から部屋の天井を照らす。それがロマンチックな雰囲気をもたらす。
「これくらいならいいだろう?」
志保の返事は無い。たぶん、ブランケットの中にもぐって見ていないのだろう。
「ちょっとこっちに来て見てごらんよ。夜景がきれいだよ」
「だって・・・、恥ずかしいもん・・・」
ブランケットの中の志保はどんな格好をしているんだろう?裸で・・・?
「あっ、いやっ!」
ブランケットを捲ると、身体を丸めた志保がいた。しかし、裸では無くTシャッツとアンダースコートのままだった。自らベッドに入ったことは志保のメッセージかもしれない。
ベッドに上がり後ろから身体を寄せる。肩に触れると震えている。頬に触れると熱い。
「志保ちゃん、愛しているよ」
耳元で囁きうなじにキスをすると身体がピクリと動いた。
「今日・・・、するんですか?」と小さくつぶやくように言う。
「うぅ~ん、それはどうかなぁ。志保ちゃんの気持ち次第だよ・・・」
「わ・た・し、わからない・・・、どうしていいか判らないの・・・、でも・・・省吾さんが・・・」
「僕が何かを言った?」
「ううん、そうじゃなくて・・・、その箱を見て、そう思ったの・・・」
「そうか・・・、これ何の箱か知っているんだね?」
「ええ、私も持っているから・・・、でも・・・、省吾さんも・・・」
志保は私がスキンを用意したことで、私の意図を理解はしたが、まだ決心がついていないとも言いたかったようだ。
しかし、私にはその前に志保が言った「スキンを持っている」事が驚きだった。
「スキンを持っているの?それ、自分で買ったの?」
「まさか・・・、もらったの、陽子から・・・」
「ふぅ~ん、親切な友達だね、今回僕と会う事になったから?」
親友の陽子さんがセックスの先輩として志保に色々教えていることは何度も聞いていたのでさほど驚きは無かったが、その後に出た言葉は私の思考回路をショートさせ激しく動揺させた。
「ううん、その前に・・・」
「それじゃ、北海道旅行に出てから?」
「ううん、もう少し前に・・・、野島さんとコンサート会場に行く前に・・・」
「えっ?なにそれ・・・」
私は絶句した。
「前にも話したと思うけど、陽子、チャンスは逃すなって・・・。たぶん、男の人が用意していると思うけど、時々、忘れたりして、持っていない人もいるから、それに安全日だと思っても絶対の安全はないから女子も用意していた方がいいからって2つもらったの」
「そのスキンはどうしたの?返したの?」
私の声が震えていた事を今でも私と志保はよく憶えている。
「ううん、今も持っているよ。ちょっと待って」
志保はベッドから下りて化粧ポーチから取り出した二個のスキンを見せた。
「ふぅん、どっちのスキンを使った方がいいのかなぁ?志保ちゃんの好きな方でいいよ」
私は少し乱暴に断定的に言う。それは頭の中に野島の影が大きく映し出されたからだ。
私の態度の変化に志保も気が付いて「えっ!そんな・・・」と私を見た。
「やっぱりしなきゃだめ・・・?」
「うん、二人が幸せになるために・・・」
「今、すると、幸せになれるの?」
「そう、今、しないと志保も僕も不幸になるから・・・」
「私、省吾さんの言っていることが解らない・・・」
「僕は今、すごく不安な気持ちなんだ。志保を誰かに奪われそうで・・・」
「私は省吾さんが好き、たぶん愛していると思うわ。だからここに来たの、ここにいるの。でも、私だって不安なの、怖いの・・・」
「僕は野島から志保を守りたい」
「どうして?そんなことを言うの?私たちと野島さんは関係ないわ。今、私は貴男と一緒にいるんだもの。私が不安と言ったのは、貴男に飽きられたらどうしよう?結婚したいけど、それは未だこれからずっと先のことでしょう?それまで貴男は私を愛し続けてくれるか・・・、それが不安なの。周りの女子を見ていると、ほとんどの人が途中で別れてしまうの。初めはとても幸せそうなのに・・・」
志保は今にも泣き出しそうに話す。その時の志保は私よりも大人に見えた。
「省吾さんは野島さんの事が気になるようだけど、私の心の中にはあの人はいないの。今は貴男しか見えないの。今日の省吾さん、何だか怖い・・・」
「志保はあの男の本性を知らないからだよ。アイツはターゲットを落とすまで絶対に諦めないんだ。今、アイツのターゲットは志保なんだ。志保は僕を選んでくれたけど、アイツがそれを知ったら意地でも奪ってみせると意気込むだろう」
「省吾さん、私だって子供じゃないわ。これからは慎重に行動します。だから、私を信じてください」
2人の会話がなぜこんなにずれてしまったのか分らないまま、ベッドの上に座って見詰め合っていた。

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