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日記番号:892

愛する妻を堕した男

志保の夫(首都圏)


  感想集

2.甘美な緊張感

このような緊張感はこれまでも何度も経験している。
小学校の発表会や運動会、高校や大学入試の最初の試験問題が配られた時、会社に入ってからも数百人を前にしたプレゼンの直前も、同じような震えを体験している。
元々私は性格的に神経質で緊張し易い人間だと思う。しかし、一旦スタートが切られると急速に落ち着きを取り戻し、本番でドタバタすることはほとんど無いのだが・・・。

その日のようなシチュエーションはこれまで何度も経験していたが、今回のように過度な緊張状態が続くのは初めての経験だ。
その原因は判っている。あの男だ。あの男が持つ暗影を帯びた雰囲気が私を不安にさせる。
妻があの男と会うのは今日で2度目だ。2週間前もまったく同じように私を緊張させ、そして1時間以上も私を不安の底なし沼の中でもがき苦しませた。しかし、2週間前と今日とでは状況が大きく異なる。
前回はわずか1時間半で妻が私の元に帰って来たのだった。
その後、妻から報告を聞いて、男がそれまで想像以上に妻に対する心遣いや誠実な態度にそれまでの不安が杞憂と納得したはずだった。

時計を見る。
1時40分、まだ10分しか進んでいない。
しかし、前回とは明らかに違う。
性的快楽を共有する目的で出会った男女が2時間以上も深夜のドライブするはずがない。最初は相互理解のための会話や気恥ずかしさもあって即日のセックスを避けることもあるが、2度目はプレーを目的に会ったことは明確だし、妻もその覚悟が出来ていたから彼からの誘いに応じたのだ。
「あの人、とても優しくて紳士的なんだけど・・・、何だかちょっと怖い感じもするのよねぇ~。これまでの人たちとはちょっと違う雰囲気を持っているの・・・」
その言葉を聞いた時、一瞬ドキリとした。それは私も感じたことだ。
「でも・・・、どんな風に違うのか、私にもよく分らないの・・・」
「怖い感じって・・・?」
「よく分らないけど・・・、側にいるとスーッと心を持って行かれるような・・・、やっぱりうまく言えないわ・・・。でも、悪い人ではなさそうな・・・」
私の不安はまったく根拠の無い、ただの“勘”に過ぎないが、妻の方は私より具体的に何かを感じているようだ。少なくとも、男の性的能力や相性に関しての勘は女の方が、本能的かどうか判らないが鋭いかもしれない。
最初にあの男を遠くから眺めた時の感想も「嫌いなタイプではないわ」だった。
1回目はそれ程でも無かったが、2度目の誘いを受けた時の妻の反応は、私の不安感とは対照的に明らかに期待感が窺えた。

時計を見る。
もうすぐ2時になる。
私の期待をまったく無視するように、目の前に置いた携帯に変化は無い。
私の脳裏には妻を乗せた白いBMWのテールランプが闇の中に消えて行く光景が甦る。
その先に見える物は甘美な妄想しかない。
闇の中に妻の白い肌が浮かび上がる。それを私の目から遮るようにあの男の裸体が覆い隠す。
次第に不安と焦燥が神経を興奮させる。大量のアドレナリンが放出されているのだろう。
この陰湿な妄想に誘発された緊張感がたまらなく甘美なのだ・・・。

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