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日記番号:892

愛する妻を堕した男

志保の夫(首都圏)


  感想集

17.スキン

その夜、志保から電話があった。
私はちょうど風呂にいたのでオヤジが出た。
「中川と言う女の子だけどどうする?」
私は腰にタオルをまいたまま電話に出る。
志保からの電話は北海道旅行の予定を変えて、明後日小樽に行くと言う。
志保たちは富良野から摩周から阿寒に行き、そこで一泊して網走を経由して釧路から東京に帰る予定と聞いていた。
しかし、志保の話では陽子だけはその予定で、志保は阿寒湖から引き返して来ると言う。
せっかくの北海道旅行だからそのまま続けたらと言ったが、「どうしてもお母さまの見舞いに行きたい」と言う。
小樽には夜に着いて、一泊して翌日に母の見舞いをしてから夕方、千歳からの羽田便に乗る予定とのこと。飛行機の手配は父親にお願いしたので問題ないが、小樽のホテル状況が分からないので中川志保で予約をしてほしいと頼まれた。
陽子は了解したのかと聞くと、「お母様へのお見舞いを薦めたのは彼女だ」と答えた。
取りあえず、明後日の小樽到着予定時間が解ったら連絡するようにと言って電話を切った。
父から誰かと聞かれたが<北海道旅行をしている大学のクラブの後輩>とだけ答えた。
ホテルは女性の観光客に人気が高い小樽運河近くのホテルを予約した。ダブルかツインしか空いていないと言うので少し迷ったがダブルを予約した。
志保とまた会える。今朝のホテルで過ごした志保の事が思い出されて何となく嬉しかった。
母には志保が見舞いに来ることは事前に知らせておいた方がいいだろうと考えた。
翌日、母が入院している病院に行く。
母には、明日の午後、中川という大学の同じクラブの後輩が見舞いに来ることを告げた。どこまで話すべきか悩んだが、未だ結婚の話は早すぎるので<北海道旅行中で札幌市内の案内をしたら、そのお礼も含めてのお見舞い>とだけ言った。母が息子の話を額面通り受け取ったかは分からないが、会う事は了解してくれた。
札幌のホテルでのシチュエーションは志保が考えたが、今度は私が考えることにした。もっとも、その通りに行くかどうかは分からないが、志保が着いたら寿司屋通りで夕食をとり、その後運河沿いを歩いてホテルにチェックインをする。ダブルベッドに驚くだろうか?札幌のホテルで恋人同士の初歩的な行為は一応済んだことになっているので、もう一歩前に進めても彼女が拒絶することは無いと考えた。もしも私が想定以上に進展した場合の準備だけはしておこうと思い、スキンを用意することにした。スキンを買うのも2年ぶりだ。薬局で買う時はやはり緊張した。
その夜、志保から電話があり、明日の夕方5時半には小樽駅に着くと言う。
私のシュミレーションより2時間早い。
父が帰宅するのは6時半だ。いつもその時間に合わせて夕食を作ることにしている。
しかし、志保をほっとくわけにもいかないので、夕食はカレーを作って、食べる時温め直して食べてもらうことにした。
父にその事を言うと、「こないだ電話をかけて来た女の子か?」と、聞くので「そうだけど」とだけ答えた。志保とは何か特別に何か父親に話す関係にはなっていない。息子の答えに父もそれ以上何も聞かなかったが、何かを感じたかもしれない。いずれは母から聞くことになるだろう・・・。
それにしても志保と会うのが早くなったのは嬉しい。一緒にいる時間が長くなれば、スキンを使う可能性が高くなると思うが・・・、はたして志保はどう反応するだろう。

私は札幌のホテルでの事を考えると色々な事が思い浮かぶ。
この問題を考える時、必ず思い浮かぶのは野島の存在だ。野島は狙った獲物は手に入れるまで決して諦めないことを座右の銘としているような男だ、志保が少しでも気を許したら・・・。
女は野島のような男を一応警戒はするが完全に拒否しない。それが彼の強みでもある。私はいつも志保の側にはいれない。この夏休みの間もこれから3週間は遠くで過ごさなければならない。それに野島には既に志保との接点がある。夏休みに入ってすぐ志保にアタックをかけて、コンサートを餌にしてホテルまで連れ込んでいる。その事を考えると元彼女との苦い失敗が思い出される。
東京と札幌という遠距離が元彼女の心の隙間を作ってしまい、その隙間から他の男の侵入を許してしまった。お互いに高校生の時に純粋な気持ちで永遠の愛を誓ったはずだったが・・・近くにいて繰り返し誘惑してきた妻子ある男を受け入れてしまった。
私が彼女の身体に押した不完全な刻印はあっさりとその男に塗り替えられてしまった。
もし、私が志保を誰にも渡さないと決心するのなら、志保の身体に明確な刻印を押すべきかもしれない。それも可能な限り早く。

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